こんにちは。
肩関節機能研究会の郷間です。
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今回の記事では、多くの人が理解に苦しむ
肩甲骨の動きについてわかりやすく解説していきます!
①肩甲骨動態の定義
②胸鎖関節が軸の肩甲骨動態
③肩鎖関節が軸の肩甲骨動態
④挙上動作時の肩甲骨動態
⑤挙上動作に関与する肩甲骨運動の主動作筋と拮抗筋
について解説していきます。
肩甲骨動態の定義
肩甲骨は〔資料1〕にあるように大まかに10種類の運動が存在します。
しかし、これらは決して単一な運動としては生じません。
”挙上するか下制するか”のような一次元的な動きではなく、挙上/内転/外旋/上方回旋/前傾(僧帽筋上部線維の作用)のように複合的に運動が生じます。
では早速ですが、肩甲挙筋を例にして、収縮することでどのような動態が生じるのかを分解してみてみましょう。
〔資料2〕
こちらの動態を分解すると、挙上、内転、前傾、下方回旋、外旋運動が生じています。〔資料2〕
通常、書籍などでは肩甲挙筋の作用は”肩甲骨の挙上、下方回旋”としか書かれていません。
内転、前傾、外旋という記載はみかけないと思います。
しかし、胸郭の基本的な形状や起始停止を繋いだベクトルを分解すればこれらの作用も生じ得ることがわかります。
正直難しいですよね。
ですが、本記事を読んでいただくことで、どんな筋が作用して、肩甲骨がどのように動いているのか、そしてどのように臨床に落とし込んでいけばいいのかが少しずつ理解できると思います。
では早速本題の肩甲骨動態について解説していきたいと思います。
肩甲胸郭関節の動態10種類は胸鎖関節を軸とした運動と肩鎖関節を軸とした運動に分けられます。〔資料3〕
肩甲骨は基本的に胸鎖関節と肩鎖関節を軸とした運動を介して”肩甲胸郭関節”が動きます。〔資料4〕
まずは胸鎖関節軸の肩甲骨運動から解説していきます。
胸鎖関節軸の肩甲骨運動
胸鎖関節を軸とした運動は挙上、下制、内転、外転の4種類になります。〔資料5〕
まずは挙上と下制運動からみていきましょう。
胸鎖関節軸運動の挙上と下制は肩甲骨面上からみた前額面の運動となります。〔資料6〕
肩甲骨面とは胸郭の形状に依存して肩甲骨が内旋(水平屈曲)約30°生じていることを指します。※内旋運動に関しては後述します。
挙上は肩甲骨が上方に、下制は肩甲骨が下方に移動する動態です。
そしてもう一方の運動が内転と外転運動になります。
内転と外転運動は水平面上の運動になります。〔資料7〕
内転は胸郭に対して肩甲骨が後内側に、外転は胸郭に対して肩甲骨が前外側に移動する動態です。
挙上下制と比較してイメージし難いですが非常に大切な運動になります。
以上の挙上、下制、内転、外転運動が胸鎖関節軸の運動です。
肩鎖関節軸の肩甲骨運動
続いて胸鎖関節が軸の肩甲骨動態について解説していきます。〔資料8〕
肩鎖関節軸の運動には前傾、後傾、上方回旋、後方回旋、外旋、内旋の6種類があります。〔資料9〕
まずは前傾と後傾からみていきましょう。
胸鎖関節軸の肩甲骨前傾/後傾運動は矢状面上の運動になります。〔資料10〕
前傾運動は肩甲骨の頭側(上角側)が前下方に、尾側(下角側)が後上方に移動します。
反対に後傾運動では肩甲骨の頭側が後下方に、尾側が前上方に移動します。
これらの運動は肩甲骨動態として生じますがその運動のほとんどが胸郭の運動に依存するとされています。
続いて上方回旋と下方回旋です。
肩甲骨の上方回旋運動と下方回旋運動は前額面上の運動として生じます。〔資料11〕
上方回旋は頭側が内下方に、尾側が外上方に移動します。
一方、下方回旋は頭側が外下方に、尾側が内上方に移動します。
最後に内旋と外旋運動です。
肩甲骨の内旋と外旋運動は水平面上の運動です。〔資料12〕
内旋運動では肩甲骨の内側(棘三角)が後外側に、外旋運動では肩甲骨の内側が前内側に移動します。
ここまでに紹介した肩甲骨の挙上/下制、内転/外転、前傾/後傾、上方回旋/下方回旋、内旋/外旋運動の10種類を臨床に落とし込むにはどのようなポイントを抑えていけばいいのでしょうか?
ポイントはいくつかあると思いますが、やはり実際の肩関節運動に落とし込むのがイメージしやすいです。
ということで挙上動作時に肩甲骨どのような動態が生じるのかを紹介していきたいと思います。
挙上時の肩甲骨角度変化
結論から言うと、挙上動作時に肩甲骨は上方回旋、後傾、外旋運動が生じます。〔資料13〕
またそれぞれの運動には大まかな角度変化があり、上方回旋運動では約40°、外旋運動では約6°、後傾運動では約25°の運動が生じます。〔資料14〕
それぞれの運動、角度を把握したところで最後に主動作筋と拮抗筋についても確認していきましょう。
挙上動態に関与する主動作筋と拮抗筋
まずは上方回旋運動です。
※ここでは各筋の中でも線維や筋束で分けられている組織は分解して明記しています。
上方回旋運動は僧帽筋上・中・下部線維、前鋸筋が主動作筋。
拮抗筋が肩甲挙筋、菱形筋、大円筋、小胸筋です。
続いて外旋運動です。
外旋運動は僧帽筋中部線維、前鋸筋中部筋束、小菱形筋、大菱形筋が主動作筋。
拮抗筋は小胸筋、大胸筋です。
そして最後は後傾です。
肩甲骨後傾は僧帽筋下部線維、前鋸筋下部筋束が主動作筋。
拮抗筋が小胸筋、烏口腕筋、上腕二頭筋短頭です。
ここで肩甲骨挙上動作における主動作筋と拮抗筋をおさらいしてみたいと思います。
〔資料18〕をみると肩甲骨の上方回旋、内旋、後傾運動の全動作に小胸筋が拮抗筋として存在することがわかります。
全ての問題が小胸筋というわけではありませんが、この表をみると小胸筋に対する評価や介入方法も再考する必要があることが十分わかります。
今回は肩甲骨動態のキホンをお伝えする内容ですので小胸筋に対する具体的な評価・介入方法はご紹介しませんが、来月の記事では小胸筋にフォーカスを当ててまとめていきたいと思います。
参考文献
1)竹井 仁,et al, MRIを用いた水平面における肩関節の肢位の変化による肩鎖関節と胸鎖関節の関節運動学的解析,日本保健科学学会誌,2010,51-58
2) Matsuki K, et al. In vivo 3-dimensional analysis of scapular kinematics: comparison of dominant and nondominant shoulders. J Shoulder Elbow Surg. 2011 Jun;20(4):659-65.
3)McQuade KJ, Borstad J, de Oliveira AS. Critical and Theoretical Perspective on Scapular Stabilization: What Does It Really Mean, and Are We on the Right Track? Phys Ther. 2016 Aug;96(8):1162-9.
4)Neumann DA, Camargo PR. Kinesiologic considerations for targeting activation of scapulothoracic musclespart 1: serratus anterior. Braz J Phys Ther. 2019 Nov-Dec;23(6):459-466.
5)高藤豊治.人の僧帽筋の動脈分布について.解剖誌59:110-121,1984.
6)林典雄.運動療法のための機能解剖学的触診技術 上肢.メジカルビュー社;2011.