こんにちは!
肩関節機能研究会 サロンメンバーの川合です。
今回は記事作成の機会を頂きましたので、上腕骨近位端骨折の病態について説明したいと思います。
内容としては初学者の方向けにはなりますが、初学者ではない方も復習程度に見ていただけると幸いです。
上腕骨近位端骨折(Proximal humeral fracture:PHF)とは
高齢者の上肢骨折において2番目に多く、成人の全骨折の5%程度とされており、
上腕骨の解剖頚及び外科頸の骨折を含んでいます。
受傷機転としてはバランスの悪くなった高齢者の転倒時に肘や手をついて受傷することが最も多く
若年者の場合は交通事故やスポーツ外傷によって、肩の側方から衝撃が加わることによって受傷するとされています。
(大槻健太ら,髄内釘を用いた上腕骨近位端骨折の治療成績,整形外科と災害外科,69:(2) 340-343,2020)
骨粗鬆症との関係
そもそも骨折とは「骨の連続性が一部または全部が断たれた状態」のことを言います。
重症度はひびのような不全骨折から転位の大きな完全骨折まで様々です。
骨折の原因としては大きく分けて3つあります。
①外傷性骨折:正常な骨に強いエネルギーが加わって生じる骨折
②病的骨折:何らかの疾患(骨腫瘍・骨粗鬆症など)による骨強度の低下が基盤となり生じる骨折
③疲労骨折:通常は骨折を起こさない程度の負荷が繰り返し加わった場合に生じる骨折
(公益社団法人 日本整形外科学会HPより一部引用 日本整形外科学会 (joa.or.jp))
上腕骨近位端骨折の原因としては骨粗鬆症を基盤とする骨強度が低下した高齢者の転倒によるものが多く、
その発生頻度としては大腿骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折、橈骨遠位端骨折に次いで多いとされています。
骨折は骨折に必要な最小の荷重すなわち「骨折荷重」を「負荷荷重」が上回ることによって発生します。
人の大腿骨を用いた破壊実験では若年者が7200N(720kgf)であるのに対して、高齢者では3500N(350kgf)に低下した
との報告もあります。
それに対して防御動作なしに転倒した場合に大腿骨近位部にかかる衝撃は5600N(560kgf)、筋肉活動時には
8600N(860kgf)に上昇すると言われています。
これらのことから転倒は高齢者の骨折荷重を優に上回る負荷荷重が加わり、骨折をもたらすことが示されています。
実際に上腕骨の骨折においても97%が転倒によるものだったとの報告があります。
(細井孝之,骨折と転倒,日老医誌 2013;50:36―39)
Neerの分類
上腕骨近位端骨折の重症度については、Neerの分類が使用され、
骨折を骨頭、骨幹、大結節、小結節の各Partの回旋と転位に基づいて、1~4Partに分類されます。
1cm以上の転位か45度以上の軸転位があれば転位骨片と扱います。
1Part=嵌入(インパクト)したか転位の無い骨折
2Part=転位した骨折もしくは側方及び回旋転位した外科頚骨折
3part=骨頭と骨幹の骨折+大結節or小結節のいずれかが側方及び回旋転位している骨折
4part=4つのすべてのPart(骨頭・骨幹・大結節・小結節)が側方及び回旋転位している骨折
通常1cm以上の大結節骨折があれば腱版断裂を合併していると考えられると言われています。
(酒井昭典ら,骨折の治療指針とリハビリテーション:南江堂)
合併損傷
①腱板断裂
約50%に合併を伴うと報告されており、60歳以上となるとその合併率はさらに上昇すると報告されています。
②神経血管損傷
前方及び下方脱臼で生じると言われています。
神経では腋窩神経や腕神経叢の後神経束が損傷を受けます。
また転位の強い4-Part骨折では腋窩動脈の損傷を合併することがあり、
血管損傷のリスクとして・・・
①転位の程度 ②50歳以上 ③腕神経叢損傷が挙げられています。
腕神経叢(後神経束)
腕神経叢の後神経束からはこれらの神経が分岐しています。
腕神経叢の損傷は肩関節だけでなく前腕・手と上肢全体に影響を与えます。
また腋窩神経からは上外側上腕皮神経が、橈骨神経からは下外側上腕皮神経・後上腕皮神経・後前腕皮神経が分岐し、
それぞれ上腕~前腕にかけての感覚を支配します。
中でも腋窩神経(上外側上腕皮神経)の損傷は肩関節外側部痛の原因になるため、上腕骨近位端骨折後だけでなく、
肩関節周囲炎などの疾患においても注意が必要です。
まとめ
①上腕骨近位端骨折は全骨折の約5%を占め、受傷起点としては高齢者の転倒によるものが多い。
②上腕骨近位端骨折では約50%の頻度で腱板断裂を合併し、年齢が高くなるにつれ合併のリスクは上がる。
③Neerの分類において4-Partの骨折では腕神経叢(後線維束)や腋窩動脈の損傷のリスクがあり注意が必要である。
【参考文献】
文中及びスライド中に記載
今回の記事では上腕骨近位端骨折の基礎的な部分を振り返りました。
介入する上では評価・治療に関する事だけではなく病態の理解も大切だと考えています。
普段の臨床に活用していただけたら幸いです。