こんにちは。
肩関節機能研究会の郷間です。
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さっそくですがみなさんは”腋窩陥凹”という部位をご存じですか?
実は肩関節の臨床を考える上ではとても重要な組織です。
腋窩陥凹(えきかかんおう)とは
下関節上腕靭帯(IGHL)の前部線維束(anterior band)と後部線維束(posterior band) とその間の腋窩囊(axillary pouch)により構成される部分である。 この部分は解剖体では 通常たるんでいるところであるが、外転位にさせると強く緊張する。
引用:日本理学療法士協会-肩関節周囲炎 重要用語-
このように、前下関節上腕靭帯(Anterior band)、後下関節上腕靭帯(Posterior band)、腋窩嚢(えきかのう)の3つで構成しているのが腋窩陥凹です。
腋窩陥凹は肩甲骨関節窩と上腕骨を繋ぎ、肩甲上腕関節の安定性に寄与していますが、その柔軟性が無くなれば可動域制限にもなりますし、腋窩嚢や靭帯が断裂すればLoose Shoulder(動揺性肩関節)にもなることがあります。
そんな肩関節臨床において非常に重要でもある
『腋窩陥凹の短縮による影響と介入』というテーマで解説していきたいと思います。
本記事を読んでいただく事で
✔腋窩陥凹の機能解剖
✔腋窩陥凹の短縮による影響
✔腋窩陥凹に対する介入 について理解することができます。
本記事をきっかけに肩関節機能解剖に興味を持っていただけると幸いです。
それではさっそく本題に入っていきましょう。
腋窩陥凹の解剖
まずは矢状面(Sagittal plane)からみてみましょう。
腋窩陥凹のなかでも腋窩嚢は下垂位ではたわんでいます。
まるでハンモックのような構造をしていますね。
これは挙上時に下方関節包は伸張されるのを許容するためのたるみであると考えられています。
前額面(Coronal plane)からも見てみましょう。
このように矢状面、前額面どちらからみても関節包の下部はたわみ(たるみ)があるのがわかってきます。
しかし、靭帯や関節包が短縮してしまうと挙上や回旋動作に際して腋窩陥凹の許容がなくなり可動域の制限を余儀なくされてしまいます。
靭帯や関節包の短縮
靭帯や関節包が短縮する病態としてはコラーゲン線維間に架橋形成(本来の線維配列とは別の連続が形成)されることにより、コラーゲン線維配列の変化が起こることが起因する。
沖田実:関節可動域制限.pp118-122,166,三輪書店,2008.
これら短縮に対しては持続的・間欠的なストレッチングやダイレクトストレッチングが有効であると報告されています。
沖田実:関節可動域制限.pp118-122,166,三輪書店,2008.
鈴木俊明・他:運動器疾患の評価と理学療法.pp228-289,アイペック,2009.
では腋窩陥凹を構成する3つの組織を伸張したい場合、どのようなポジションでどのようなストレッチをすればよいのでしょうか?
まずはそれぞれの組織の位置関係からみてみましょう!
このように持続的・間接的ストレッチングを行うポジションでは
前下関節上腕靭帯➡2nd外旋(90°外転位外旋)
後下関節上腕靭帯➡3rd内旋(90°屈曲位内旋)
腋窩嚢➡肩甲骨面上の挙上(水平屈曲30°で挙上)
で効率よくストレッチングを行うことが可能です。
腋窩陥凹をストレッチング
では3つの組織の中でも比較的容易に伸張肢位をとることが可能な前下関節上腕靭帯と後下関節上腕靭帯のストレッチング方法を動画にしてみましたので是非ご覧ください。
腋窩嚢は肩甲骨面上、すなわちScapula plane上の挙上で最も均一に伸張しますが、挙上時に肩峰下Impinmegentが生じ痛みを訴える場合があります。
リスクを回避するためにも、まずは前下関節上腕靭帯と後下関節上腕靭帯の伸張操作からアプローチしてみてください。
腋窩陥凹の短縮予防訓練
まず、運動の前に上腕三頭筋長頭の解剖をおさらいしていただきたいと思います。
学生時代、『上腕三頭筋長頭は肩甲骨関節窩結節の下方に付着する』と授業で習った方も多いかと思います。
もちろん私も授業では”関節窩結節下方に付着する!”と覚えましたし、学校のテストでも回答用紙に”三頭筋長頭の起始は肩甲骨関節窩結節の下方!”と記載して○をもらった記憶があります。
しかし、実際は関節窩のみならず関節包や関節唇まで幅広く付着しているという報告も多くみられます。
Nasu,et al:An anatomic study on the origin of the long head of the triceps brachii.JSES.15;3(1):5-11,2019.
杉本勝正ら:関節窩後下方の解剖学的研究-Bennett骨棘の成因について-.JSES.29;2:243-246.2005.
ということは、上腕三頭筋長頭の運動を行うことで挙上運動が行えない時期(痛みでは炎症期、物理的には拘縮期)でもしっかりと下方の関節包に対する伸張操作を行うことが可能であることが考えられます。
こちらの動画をみていただくとわかるように、上腕三頭筋長頭の運動により関節包が伸縮する動態を観察することができます。
実際に挙上が可能な方には挙上150°前後でこのような上腕三頭筋長頭実質の運動を促す操作を行うことが多いのですが、挙上が90°程度しか行えない方においても同様のエコー動態を観察することができましたので、ぜひ臨床でやってみてください。
より早期から行うことで腋窩陥凹の短縮予防になるかと思います。
では最後に腋窩陥凹が短縮しないように事前に腋窩陥凹に適度な伸張刺激を行うセルフエクササイズをご紹介したいと思います。
『そんなのはさっきの2nd外旋と3rd内旋を行えばいいじゃないか?』
と思った方も多いかと思います。
しかし、外傷性でも非外傷の退行性変化でも痛みの強い炎症期においては先ほどご紹介したストレッチング更なる疼痛増悪の要因になりかねませんので痛みの強い時期はこのような下記のような運動療法をオススメします。
※僕の場合は今からご紹介する運動療法を炎症期-拘縮期-回復期すべての時期で行っています(^^)
こちらにはGood(良い例)とBad(悪い例)を挙げさせていただきました。
※書籍や論文ではなく自身でエコーガイド下で上腕三頭筋の動態観察をした際に得られた持論も含まれておりますのでご容赦ください。
Good ○
肘を伸展最終域までしっかりと伸ばす。上腕三頭筋(内側頭、外側頭、長頭)の収縮が入るよう意識する。
エコーで観察すると肘伸展最終域で腋窩嚢までの伸張伝達が観察できる。Bad ✖
肘伸展最終域の-20度程度でやめている。
筋の収縮感覚はGood例と差はないがエコーで観察すると腋窩嚢までの伸張伝達が得られていない。
おわりに
今回は”腋窩陥凹の短縮改善と予防”にフォーカスを当ててお話しさせていただきました。
機会があれば、”腋窩陥凹の機能的安定性”についてお話していきたいと思いますのでその時まで楽しみに待っていてください(^-^)
ということで今回はこのへんでおしまいにしたいと思います。
今後もみなさんの臨床の一助になれれば幸いです✨
以上、肩関節機能研究会の郷間でした!