

現在、高校野球のサポートに行っていますが、胸郭出口症候群 による尺骨神経障害の方が多い印象を受けます。
そこで、なぜTOSによる尺骨神経障害を呈することが多いのか、自分の考えも含めてご説明をしていきます。
胸郭出口症候群(TOS)の病態
第1肋骨、鎖骨、斜角筋で形成される胸郭出口および腕神経叢・鎖骨下動静脈の圧迫・伸張によって上肢に痛みや痺れを有する症候群です。
また、下記のように牽引と圧迫の混合であることが多く、神経性の症状が出現しやすいと報告されています。
牽引型:8% 圧迫型:18% 混合型:74%
神経性:96.7% 動脈性:0.5% 静脈性:2.8%
TOSの評価
TOSの評価項目では、問診、圧痛、整形外科的テストが一般的であると報告されています。
まず、問診に関してですが、上肢挙上による生活動作困難の聴取が重要です。
具体的に、シャンプー・ドライヤー・電車のつり革、洗濯の物干し・歯ブラシなどで症状の出現が多くないか確認が必要です。
整形外科的テストでは、下記の方法が挙げられます。
これらの評価項目の中でも、下記の3つはとても重要な所見です。
問診:上肢挙上位での症状の増悪を聴取
圧痛:斜角筋・鎖骨上窩
Roos test:手の蒼白の有無・症状の出現
※30秒保時・持続できない例は手術移行の確率が高い
TOSによる尺骨神経障害について
高校野球部のサポートを経験していく中で、TOSによる尺骨神経障害を呈する方が多い印象でした。
そこで、なぜ尺骨神経障害を呈する方が多いのか、機能解剖学的観点から考えました。
尺骨神経は、C8・Th1から出て、腕神経叢として、第1肋骨上、鎖骨後方、小胸筋下を通ります。
そのため、第1肋骨が上方へ移動すると、Th1神経が牽引され、尺骨神経障害が出現すると考えられます。
また、腕神経叢は、鎖骨の後方を走行するため、鎖骨の動きにも注目しなければいけません。
鎖骨は、上肢挙上に伴い、約8.5°下降し、約13°後方回旋し、約25°後退すると報告されています。
このように、上肢挙上に伴い、肋骨が上方へ変位し、鎖骨の降下、後退、後方回旋が生じることにより、尺骨神経障害を呈しやすいと考えられます。
尺骨神経障害の評価
尺骨神経障害を疑った場合は、筋力評価・感覚検査・Nerve tension testを行います。
筋力評価に関して、尺骨神経の支配筋である小指球筋や尺側手根屈筋の筋力を測定するため、小指対立や小指外転を行います。
こちらが、自分が高校野球のサポートで尺骨神経障害を呈していた選手です。
介入前のように小指対立ができておらず、小指球筋の筋出力が低下しているのが分かります。
感覚検査に関して、検側と患側の感覚を脱脂綿やアルコールなどを用いて評価を行います。
Nerve tension testに関して、尺骨神経は、頚部を反対側に側屈させ、肩関節を外転・外旋させ、示指と中指を伸展させると、伸張されます。その肢位を取れない場合や、その肢位で疼痛が出現すると、尺骨神経障害と判断しています。
尺骨神経障害に対する介入
胸郭出口症候群に対する、尺骨神経障害であれば、中枢部より介入を行い、症状が改善しなければ、遠位の方へ介入する部位を変えています。
中枢部とは、斜角筋や前鋸筋、小胸筋に対して下の図のように介入を行います。
斜角筋に対しては頚部の伸展や肩甲骨の挙上、前鋸筋に対しては前方へのリーチ動作、小胸筋に対しては、側臥位での体幹回旋などを行っております。
尺骨神経周囲の疎性結合組織に対する介入は、下の動画のように行っております。
- Struthers’ arcade
- 筋間中隔
- 肘部管
- Osborne band
まとめ
- TOSでは、尺骨神経障害を呈する方が多い。
- 尺骨神経障害を疑った場合は、筋力評価、感覚検査、Nerve tension testを行う。
- TOSに対する治療として、斜角筋や前鋸筋、小胸筋などの中枢部より介入を行う。
- 尺骨神経障害の治療として、Struthers’ arcade・筋間中隔・肘部管・Osborne bandの部位で絞扼症状がないかを評価し、徒手で介入を行うと効果的である。