肩の臨床で使えるツール‐超音波治療器‐前編

こんにちは。
肩関節機能研究会の郷間です。

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今回は臨床で頻繁に使用する超音波治療器についてお話していきます。

実は以前から超音波治療器を使用した臨床応用方法についてのリクエストをたくさんいただいておりました。

今回はそんなリクエストにお応えして
✓超音波治療器とは?
✓温熱効果と音圧効果とは
✓超音波とマッサージの作用の違い
✓周波数(MHz)の使い分け方法
✓ジュール熱とは
✓級数係数と有効深達度とは
✓超音波治療器の利点と欠点

についてお話をしていきたいと思います(^-^)ノ

後半は少し難しい話も含まれていますが、臨床での実践的な使用方法、使い分け方を例え話などを盛り込みながらお話ししますので気楽に読んでみてください。

本記事は11月4日㈭に開催する肩関節機能研究会主催
【肩の臨床で使えるツール ~術後からスポーツ現場まで~】
でお話しさせていただく内容のほんの一部になります。

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⇩セミナー概要はこちらです(^-^)ノ⇩

では早速本題に入りたいと思います。

そもそも超音波治療器とはどのような機器なのでしょうか?

超音波治療器とは

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超音波の設置率と使用率
オーストラリア(欧州)
 設置率:100%
 使用率:93.2%

カナダ(北欧アメリカ)
 設置率:92.8%
 使用率:93.7%

日本
 設置率:29.7%
 使用率:1.0% 

これらの報告は1990年~1995年の報告であり約30年近く昔の論文になりますので現在では設置率や使用率が向上している可能性は十分あるかと思います。

しかし、日本においては超音波治療器は設置してあるにもかかわらず
具体的な使用の用途や効果を知らないけど”なんとなく使っている”セラピストも多いのではないでしょうか?

そもそも超音波療法には科学的根拠があるのでしょうか?
実は推奨グレードC2、エビデンスレベル2とお世辞にも科学的根拠が高いものとは言えません。

推奨グレードC2➡行わないように勧められる科学的根拠がない
エビデンスレベル2➡1 つ以上のランダム化比較試験による

しかし今回はこれらの推奨グレードやエビデンスレベルを理解した上で私自身の解釈も踏まえてお話ししていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

それではまずは超音波療法に関する諸家の報告をみていきましょう。

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このような報告からも超音波療法に関しては意見が様々です。

しかし私個人の意見もありますが超音波治療器の効果は”使い方次第”と考えています。

根拠もなく”効果がある!”とは言えませんのでここからはマッサージホットパックなどと異なる超音波療法の特性や特徴を解説していきます。

超音波治療器の作用 温熱効果と音圧効果

超音波には振動によって発生する”温熱”を利用して組織を温める”温熱効果”と振動によって発生する”音波”を利用して組織をマッサージする”音圧効果”があります。

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温熱効果は主に慢性期疾患に適しています。
効果としては疼痛、筋スパズム(筋攣縮)、瘢痕組織、異所性骨化、関節周囲炎、関節拘縮、腱鞘炎などの改善を目的に使用します。

音圧効果(マッサージ効果)は主に急性期疾患に適しています。
効果としては創傷、靭帯損傷、浮腫、血流改善の改善を目的に使用します。

このように超音波治療器1つをとっても効果が全く異なりますので使用目的と使用方法をしっかりと理解して使用することで、効果を最大限に発揮することもできますし、使い方次第では症状を増悪させてしまう可能性も否めないのでしっかりと病期・病態を把握して使用することが必須の条件となります。

ここで『音圧効果(マッサージ効果)ならマッサージをすればいいのでは?』という疑問が挙がってくるかと思います。

問題ありません。
音圧効果(マッサージ効果)を目的とするのに超音波治療器を選択する理由もあります。

キーワードは”逆ピエゾ効果”です。

あまり聞き馴染みの無い言葉かとおもいますのでここで逆ピエゾ効果について触れていきたいと思います。

超音波治療器を使用する理由① -逆ピエゾ効果-

超音波治療器の先端はセラミッククリスタルというが体積変化を起こすことにより、押す力と引っ張る力が人体に作用します。

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具体的に解説すると
手技によるマッサージがマイナス方向(グラフの下側)にのみ作用するのに対して超音波による振動はプラスとマイナスの両方向に作用します。

例えば
マッサージで腰を押すと指は深層に沈み込んでいきますよね。
これが人体にとって下方向のみに圧がかかります。

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一方で超音波は振動による発生する”音波”を利用するためギターの弦のようにその振動は一方向ではなく上下方向に生じます

これが逆ピエゾ効果です!

逆ピエゾ効果に関しては調べてみましたが医療業界だけでなく、接合型電界効果トランジスタ 半導体の電極などの分野においても活用されるようですね。

もう少し臨床に近づけた話をすると、圧痛が強い部位はマッサージが困難な場合も多いですし、表皮から骨到達部までの組織の厚みが薄い部位(肘や手、肩なら前面部)であれば押す力と引く力に働く方が作用の総幅が大きくなるので非常に有用であることがわかりますね。

超音波治療器を使用する理由② -周波数-

超音波に利用される表記に”MHz(メガヘルツ)”とは国際単位系における周波数の単位です。

これは周期的な現象の頻度を表す単位の一つで、1秒あたり何百万回起きるかを示したものになります。

ちなみに多くの超音波治療器に採用されているのが1MHzと3MHzです。

1MHzの場合1秒間に100万回の振動、3MHzの場合は300万回の振動が起きているということになります。

セラピストが起こせる振動(連打?)は多くても1秒間に3-5回程度ですので、超音波による振動数が比にならない単位であることがわかりますね。

ではこちらの振動を臨床で多くみられる”圧痛”に落とし込んでみましょう。
例えばボクサーの渾身のストレート1発(単位がわからないので”100”とします)細かいジャブ5発(1発20×5発=100)ではどちらの方が痛みが強いでしょうか?
どちらの総数も100ですが、どう考えてもストレートの方が痛みが強いですよね。
これを徒手的なマッサージによる1回の圧と1秒間に300万回振動が生じる超音波の3MHzで比較してみましょう。

マッサージの圧刺激1回/毎秒を100として
3MHzの超音波は300万/毎秒であり100÷300万回=0.00003333333

となります。

数字が極端ですが、そういうことです。

MHzの単位が大きければ大きいほど、細かい刺激になり痛みが少ないのです。

超音波治療器を使用する理由③ -ジュール熱-

懐かしいですね。受験シーズンに勉強した方も多いのではないでしょうか?

ジュール熱は、導体に電流を流すことにより発生する熱のことで、超音波療法も超音波治療器の先端にあるセラミッククリスタルが電気によって振動して生じるジュール熱による温熱を治療として用いています

このジュール熱は、一定の速度で物体を滑らせたときの摩擦力により発生する摩擦熱であり、電球や電気毛布などもジュール熱により熱を発生しています。

もう少し簡単に説明すると手掌を素早くこすって温める”摩擦熱のようなイメージです。

一般的に用いられているホットパックはジュール熱ではなく伝導熱です。
伝導熱はジュール熱に比べて深達熱が浅いです。

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具体的にはホットパックは伝導熱であり、その深達熱は皮膚から約1㎝程度です。

そして超音波やマイクロ波などのジュール熱の場合の深達熱は皮膚から約1-3㎝です。
※¹ 1MHz=約3㎝、3MHz=約1㎝
※²深達熱は半価層です(超音波の強度が最初の半分になる深さ)

このように超音波治療器はジュール熱を用いることでより深層にまで温熱効果を与えることができるため、理学療法評価によって問題点が深層であった場合は、ホットパックの伝導熱ではなく超音波治療器のジュール熱を選択するべき。ということになります。

超音波治療器を使用する理由④ -吸収係数と有効深達度-

続いて吸収係数と有効深達度についてお話していきます。
ちなみに有効深達度とジュール熱の深達熱は言葉は似ていますが全く異なる意味を持ちます。

吸収係数=放射が物質の中を進むときに、単位長さ当たりに吸収される割合
有効深達度=超音波エネルギーの残存する深さ

この吸収係数と有効深達度は超音波の周波数(MHz)によって異なります

周波数が大きくなるに応じて正比例的に吸収係数が増加し、有効深達度は反比例的に減少します。

具体的には3 MHz の吸収係数は 1 MHzの 3 倍となり、有効到達深度は逆に 3 MHz では 3 cm、1 MHzでは 9 cm となります4)。

つまり、深部治療には1 MHz,浅部治療には 3MHz を使用することで、標的となる組織にしっかりと効果を与えることができます。

ちなみにいくら軟部組織とはいえマッサージではさすがに9㎝も深部まで介入できませんよね。

超音波治療器の利点と欠点

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超音波は目的組織に対する効率の良い温熱やマッサージ効果を深い部分にアプローチできる利点がある一方で、介入範囲が小さく、機器の特性を理解して使いこなせなければいけないといった欠点もあります。

そのため特徴や特性を理解し、理学療法評価で的確に問題点を把握した上で正しく使用すれば徒手やホットパックと比べても非常に高い効果が期待できます。

”みんなが使っているからなんとなく使っている”

こんな惰性で使用しないようにしっかりと機器も把握してフル活用してみましょう(^-^)ノ

ということで今回は少し難しい超音波治療器の使用方法についてお話しさせていただきました。

次回はもう少し”肩関節の臨床に落とし込んだお話”を盛り込みながら解説ししていきたいと思います(^-^)ノ

今後も臨床に活用できるような臨床に近づけた内容の記事を執筆していく予定です(^-^)

少しでも”参考になった”と思った方はぜひスキボタンをタップしてください✨

今後の励みになります!では今回はこのへんで。

以上、肩関節機能研究会の郷間でした。

引用文献

1)Lindsay DM, Dearness J, et al.: Electrotherapy usage trends in private physiotherapy practice in Alberta. Physiotherapy Canada 1995; Winter: 30–34.
2)Lindsay D, Dearness J, et al.: A survey of electromodality usage in private physiotherapy practice. Australian Physiotherapy 1990; 36(4): 249–256.
3)吉田正樹,川村次郎,他:物理療法機器利用実態調査.理学診療 1995; 6(3): 232–238
4)Low J, Reed A, et al.: Electrotherapy Explained Principles and practice. UK: Butterworth Heinemann;2003, p.172–211.

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