TSAの概要

皆さんこんにちは。肩関節機能研究会 研究生の神藤です!

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今回からは「人工肩関節置換術」について書いていこうと思います。
人工肩関節置換術は以下の3種類があります。

解剖学的人工肩関節置換術(anatomical total shoulder arthroplasty:以下TSA)

②リバース型人工肩関節置換術(reverse total shoulder arthroplasty:以下RSA)
③人工骨頭置換術

 

今回の記事ではTSAについて書いていきたいと思います!

この記事を読んで得られる情報
TSAの『適応』『目的』『合併症』『術式

 

それではさっそく本題に入っていきましょう!

TSAの適応

TSAは疼痛や機能障害が著しい一次性の末期変形性肩関節症関節リウマチによる肩関節機能障害に適応とされており、以下の条件に当てはまればTSAが選択されるとされています1)

 

TSAの適応条件1)
腱板機能が残存している

関節窩コンポーネントが関節窩と肩甲骨皮質骨内にしっかりと設置できる

 

腱板機能関節窩の形態が必須条件ということですね!

関節窩コンポーネントが設置できるかどうかを判断するために関節窩の評価が必要になります。その評価方法として、Walch分類が用いられています。

 

 

Modifed Walch分類:一次性変形性肩関節症における関節窩横断面の形態分類1)
type A:上腕骨の亜脱臼無し
   A1ー関節窩中央の軽度びらんを認めるもの。
   A2ー関節窩中央の高度びらんを認め、関節窩の前縁と後縁を結ぶ線が上腕骨頭を横切るもの。
Type B:上腕骨頭は後方へ亜脱臼
   B1ー関節窩後方の関節裂隙の狭小化または骨硬化や骨棘と亜脱臼を認めるもの。
   B2ー関節窩後方のびらんと(bicocave)、上腕骨頭の後方亜脱臼を認めるもの。
   B3ー関節窩の陥凹と後方の摩耗があり(monoconcave)、さらに関節窩の15°以上の後方傾斜、または上腕骨頭の70%以上の後方亜脱臼を認めるもの。
Type C:関節窩が25°以上の後方傾斜を認めるもの。
Type D:関節窩の前方傾斜、または上腕骨頭の40%以下の前方亜脱臼を認めるもの。

この分類の中で、関節窩の後傾が高度な症例(type B2,type C)では関節窩コンポーネントの固定が不十分となりTSA適応外になります。この場合や、腱板機能不全を認める場合に、rTSAが検討されるようです。
rTSAについてはまたの機会に書いていきたいと思います!

 

その他にも60歳以上の方が良い適応とされています1)

PatelらはTSAを施行した1135例を55歳以上群と以下群に分けて検討し、術後成績は両群とも良好でほぼ同等であったが、55歳以下群の方が手術に対する満足度が低かった3)と報告しています。

その一つの原因として、高齢者と比較して若年者ではより活動的であることが挙げられていました。

TSAの目的

TSAの目的としては除痛可動域向上がメインです。
TSAではOA肩、RA肩ともに疼痛の改善に優れており、Stewartら4)78%、Hawkinsら5)91%の方が疼痛軽減したとして、高い除痛効果を報告してます。最近の報告では明確にパーセンテージで記載されているものは見つけられませんでしたが、疼痛の改善が見込まれています。

最近の報告でTSAが少なくなっているのは、リバース型人工肩関節置換術が主流になってきている背景もあるのかな?と思います。2015年には全人工肩関節のうち解剖学的人工肩関節は25%であり、反転型人工肩関節が導入2年目ですでに75%を占めるようになった6)とされています。

 

 

TSAによる可動域拡大も良好な成績を残していますが、どの報告でも腱板機能が術後臨床成績に影響してくるとしています。その中で腱板機能残存例と腱板機能不全例で術前・術後の関節可動域を比較した報告を下図にまとめました。

 

 

この結果からも両群改善は見込めますが、腱板機能残存群の方が術後の臨床成績が良好であることが分かりますね!

 

ではなぜ腱板機能不全が生じていると術後の成績に悪影響を及ぼすのでしょうか?
その部分を理解するにはTSAの挙上動作における仕組みを理解するとよいかと思います!

 

TSAは回転中心が骨頭中心に存在します。腱板機能による求心位を保持した状態で三角筋の収縮が生じ、回転運動が生じることで挙上運動が可能になります。

腱板機能が低下していると三角筋の収縮により上腕骨頭の上方転位が起きてしまい、肩峰下でのインピンジメントによる可動域制限や関節窩コンポーネントのゆるみが生じ得ます。

また、関節窩コンポーネントの設置角度不良上腕骨頭の上方転位を引き起こすともされています。

 

 

 

このように、腱板機能不全が存在すると上腕骨頭の上方転位によりAHIが狭小化、二次性の腱板機能不全やコンポーネントの緩み等の合併症のリスクも高まり、術後成績不良因子となると考えられます。

そのため、腱板の脂肪浸潤等の評価が重要になるので、評価をしていきましょう!
脂肪浸潤の評価はこちらの記事で勉強すると理解できるかと思います!

 

 

その他のTSAの術後成績に影響する因子としては以下のものが報告されています4)

TSA術後成績に影響する因子7)8)
肩甲上腕関節の破壊の程度
・上腕骨頭の上方または内側への転位
・術前の腱板機能
・コンポーネントの設置位置
・固定性
・年齢
・手術時期
・性別
・糖尿病などの基礎疾患
・手術歴
・非利き手側

TSAの術式

従来の術式としては前上方からの三角筋-大胸筋間からのアプローチ(deltopectoral approach)が用いられているとしています。この術式であると一度肩甲下筋腱は小結節で骨切りされ、その後修復されます。多くの場合、肩甲下筋腱は修復され機能回復しますが、肩甲下筋の機能不全が生じることもあり、術後の異常所見(前方不安定性など)につながってくるとされています。9)

他にも前上方三角筋アプローチ(anterosuperior transdeltoid approach)が選択されることもあるようです。

各アプローチの特徴を以下のスライドに簡単にまとめてみました。

 

 

皮切の大きさは正確ではありませんが、特徴はこのような形になっているかと思うので、参考程度にお願いします。

術中に肩甲下筋腱の骨切りがされているかどうか(どの肢位で縫合されたか)
三角筋の侵襲はあるか
脱臼肢位(術直後の外旋肢位)
関節窩(特に下方)の骨棘の有無

 

セラピストはこの部分を確認した上で介入をしていくことが重要なのかと考えています

TSAの合併症

TSA術後での合併症で一般的なものを記載します。

TSA術後の合併症11)
コンポーネントの緩み
不安定性
腱板断裂
・人工関節周囲骨折
・神経損傷
・感染
・三角筋機能障害

これらが一般的に多いとされているようで、発症率に関する報告は様々ですが、平均合併症発症率は10%〜16%と報告されていました11)

 

上3つに簡単に触れていきます。

コンポーネントの緩み

コンポーネントの緩みは最も多い合併症とされています。関節窩コンポーネントと上腕骨コンポーネントがあり、関節窩コンポーネントが緩む比率が高いようです11)

コンポーネント設置不良による影響が大きいようですが、前述したように上腕骨頭の上方転位による緩みも生じうるため、セラピストとしては後方・下方組織のタイトネスや、腱板・三角筋のフォースカップルの改善をしていく必要がありますね!

不安定性

人工肩関節置換術後の不安定性の発生率は4%と言われているようで、コンポーネントの位置不良・軟部組織のアンバランスが組み合わさり二次的に生じるものとされています。11)
この報告では前方・上方の不安定性が124例のうち99例(80%)とされており、大部分を締めているとのことです。それぞれの原因として考えられているのは以下のとおりです。

不安定性の原因
前方不安定性
・上腕骨コンポーネントの設置不良
・関節前部の欠損
・三角筋前部の機能障害
肩甲下筋の機能障害
上方不安定性
・腱板機能不全による三角筋とのフォースカップルの不良
・烏口肩峰アーチの欠損
特に肩甲下筋の機能障害による影響が多いようです。

腱板断裂

Bohsaliら11)によるとTSA術後の有病率は1.3%(2540肩中32肩)であり、その中でも肩甲下筋腱の断裂は32肩中17肩で大部分を締めていたと報告しています。

セラピストとしては肩甲下筋腱の術後断裂の要因の中で、術後早期での過度な外旋運動を注意する必要があるかと思います。

術中に肩甲下筋腱を縫合する際の、肩関節外旋角度を把握し過負荷にならないよう治療を勧めていくようにしましょう!

まとめ

・TSAは除痛可動域向上を目的に施行され、高い除痛効果・可動域向上が見込まれる。
・TSAの適応条件として腱板機能関節窩の形状が重要である。
・腱板機能不全が存在すると可動域の術後成績不良となり、関節窩コンポーネントの固定性が不良であるとコンポーネントの緩みが生じるリスクが高まる。
・TSAでは肩甲下筋の機能が重要で、術後早期での過負荷に注意する。

いかがだったでしょうか。
TSAを担当する機会はあまり多くはないかと思いますが、担当した際に皆さんの臨床の一助となるような記事となっていれば幸いです。まだまだ僕自身経験も浅く、至らぬ点が多いかと思いますので、アドバイスや修正点があればDM等でご教授頂けたら幸いです!

ご拝読ありがとうございました!

 

参考文献

1)菅谷 啓之,高村 隆:機能でみる 船橋整形外科方式 肩と肘のリハビリテーション.株式会社 文光堂.pp151-166.2019

2)Jared M Mahylis et:Imaging of the B2 Glenoid: An Assessment of Glenoid Wear.Journal of Shoulder and Elbow Arthroplasty Volume 3: 1–9.2019

3)Patel RB et: Results of total shoulder arthroplasty in patients aged 55 years or younger versus those older than 55 years: an analysis of 1135 patients with over 2 years of follow-up. J Shoulder Elbow Surg. 2019 May;28(5):861-868. 

4)Stewart MP et: Total shoulder replacement in rheumatoid disease: 7- to 13-year follow-up of 37 joints. J Bone Joint Surg Br. 1997 Jan;79(1):68-72. 

5)Hawkins RJ et: Total shoulder arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 1989 May;(242):188-94. 

6)井樋 栄二ら:特集 人工関節におけるリハビリテーション 人工肩関節置換術とそのリハビリテーション.Jpn J Rehabil Med 2017;54:182-185

7)金澤 智子ら:当科における人工肩関節置換術の治療成績の検討.日関病誌.33(4).479~485.2014

8)Mahony GT et.:Risk factors for failing to achieve improvement after anatomic total shoulder arthroplasty for glenohumeral osteoarthritis. J Shoulder Elbow Surg. 2018 Jun;27(6):968-975. 

9)John et : The subscapularis-sparing windowed anterior technique for total shoulder arthroplasty.VOLUME 30, ISSUE 7, SUPPLEMENT , S89-S99, JULY 01, 2021

10)L. Nové-Josserand:Glenoid exposure in total shoulder arthroplasty.Orthopaedics & Traumatology: Surgery & Research 104 (2018) S129–S135

11)Bohsali et: Complications of Total Shoulder Arthroplasty, The Journal of Bone & Joint Surgery: October 2006 - Volume 88 - Issue 10 - p 2279-2292

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