
こんにちは。
肩関節機能研究会の郷間です。
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今回は『肩鎖関節脱臼で押さえておくべき理学療法評価と指導ポイント』というテーマでまとめさせていただきました。
肩鎖関節脱臼は他の肩関節疾患と比べて、決して多くはない疾患ですが、肩関節疾患に従事するセラピストであれば必ず押さえておかなければいけない疾患です。
本記事を読んでいただくことで
肩鎖関節の解剖、安定化構成組織、肩鎖関節脱臼の病態、肩鎖関節の動態、理学療法評価と指導ポイントについて理解することができます。
では早速本題です。
肩鎖関節とは
肩鎖関節(Acromioclavicular joint;AC関節)は鎖骨の肩峰端と肩甲骨の肩峰からなる平面関節です。
肩鎖関節内には関節円板が存在し関節の安定性・適合性に寄与しています。
吉村ら¹⁾は関節円板は膝の半月板と似たような構造をしており、中央部には線維性軟骨を有しその辺縁は線維組織となり関節包と連結していたと報告しています。
ちなみに身体で関節円板が存在するのは顎関節、胸鎖関節、肩鎖関節、手関節の4関節のみで、国家試験にも出題されやすい問題ですね。
肩鎖関節の安定性
肩鎖関節の安定性に関与する組織は肩鎖関節を囲む密な関節包と肩鎖靭帯、および鎖骨と肩甲骨烏口突起を繋ぐ烏口鎖骨靭帯(円錐靭帯、菱形靭帯)が安定性に関与します²⁾。
さらに肩鎖靭帯には僧帽筋の一部が付着しています。
僧帽筋の停止腱と肩鎖靭帯の線維束はその外見と走行が非常に類似する点から、両者の境界を見分けるのは難しいとされています。また、三角筋は肩鎖関節の前縁に付着します。
つまり、三角筋と僧帽筋は肩鎖関節をまたいで肩甲骨と鎖骨に付着することで肩鎖関節の安定性に寄与します³⁾。
では、基本的な肩鎖関節の構造をおさらいしたところで肩鎖靭帯の解剖について確認していきましょう。
肩鎖靭帯の解剖
肩鎖靭帯(Acromioclavicular ligament;AC靭帯)は肩峰と鎖骨外側端を繋ぐ2つの線維束で構成されています⁴⁾。
①上面と後面を覆う線維束(Superoposterior bun-dle;SP束)
②前面と下面を覆う線維束(Anteroinferior bun-dle;AI束)

※図:上面と後面を覆う線維束(Superoposterior bun-dle;SP束)
肩鎖靭帯は肩鎖関節を全周性に覆う靭帯であり、特に関節の上面を覆う上肩鎖靭帯が厚みをもって関節安定化に寄与⁴⁾しています。
SP束は鎖骨の後方変位および後方回旋を抑制することに寄与⁴⁾し、AI束は前方変位の抑制に寄与する¹⁾とされています。
このように一見すると非常に安定してそうな肩鎖関節ですが、肩鎖関節にかかるストレスにより脱臼が生じることもあります。
肩鎖関節脱臼とは
肩鎖関節脱臼は主に直達ストレスにより生じる脱臼と介達ストレスにより生じる脱臼の2種類があります。
✔直達ストレス
転倒などにより上肢下垂位あるいは肩関節内転位で肩の外側部に衝撃が加わり、肩甲骨を下内側に押し下げる力が働いて起こる⁵⁾。
✔介達ストレス
上肢外転位で手や肘をついた際に上腕骨に沿って伝達される上内側方向の力が肩峰に集中することによって引き起こされる⁵⁾。
※介達ストレスでは肩甲骨が上方に変位して烏口鎖骨靭帯は弛緩するため、烏口鎖骨靭帯の合併損傷は稀とされています。
このように肩鎖関節脱臼にも烏口鎖骨靭帯の合併損傷有無など、傷害の程度をいくつか分けて考えます。
今回は一般的なRockwood分類⁶⁾を紹介します。
Rockwood分類と治療方針

TypeⅠ(捻挫)
・肩鎖靭帯の微細損傷、烏口鎖骨靭帯や筋に異常なし
TypeⅡ(亜脱臼)
・肩鎖靭帯の断裂と烏口鎖骨靭帯の微細損傷
・鎖骨遠位端がやや上方に変位
TypeⅢ(脱臼)
・肩鎖靭帯と烏口鎖骨靭帯の断裂
・鎖骨遠位端が完全に上方変位
TypeⅣ(後方脱臼)
・肩鎖靭帯と烏口鎖骨靭帯の断裂
・鎖骨遠位端が後方に変位
TypeⅤ(高度脱臼)
・肩鎖靭帯と烏口鎖骨靭帯の断裂
・TypeⅢのより高度なもの
TypeⅥ(下方脱臼)
・鎖骨遠位端が下方に変位
・非常に稀な脱臼
肩鎖関節脱臼の手術適応、術式については半世紀以上も前から議論されており、理学療法士の私があれこれ発言する余地なんてありません。
特にRockwood分類Ⅲは手術をする例と保存療法のみの例で分かれているようです。
この背景には、単に機能面だけを考慮しているわけでは無く、患者の生活レベルやスポーツレベルなどが深く関係しているため”一概には決められない”ようです。
一方、Rockwood分類のⅠ,Ⅱは保存治療となることが多いので、Rockwood分類はしっかり覚えて、治療で携わるときの傷害レベルの把握に活用していきましょう。
そもそも鎖骨はどのように動くのでしょうか?
次の項で確認していきましょう。
鎖骨の動態
鎖骨は挙上/下制、前進/後退、前方回旋/後方回旋の3種類2パターンの動きがあり、これらは一次元的な動き”だけ”ではなく、複合的かつ三次元的に動きます。

では挙上した際、鎖骨はどのような動態が生じるのでしょうか。
挙上時に鎖骨は挙上、後退、後方回旋が生じます⁷⁾。
この後退、後方回旋、挙上の中でも最も角度変化が大きいのは後方回旋(31°増加)です⁷⁾。
ではこれらの動態は挙上動作初期から生じるのでしょうか。
実は屈曲動作初期の鎖骨はあまり動きが無く、屈曲120°以降で鎖骨の動きが増加します⁸⁾。
一方、外転動作は初期から緩やかに角度が増加し150°を最大に、以降はほとんど鎖骨の動態が生じません。
私見も入りますが、医師が鎖骨脱臼の術後指示で挙上90°までの運動を許可し、ある程度の経過をみて90°以上の運動許可を下すのにはこのような理由があると考えています。
ここまで肩鎖関節の基礎解剖、安定性に関与する組織、肩鎖関節の脱臼分類、そして鎖骨動態について解説してきました。
最後にこれらの情報を基に私なりに普段意識して実施しているリハビリ治療の内容を紹介し本記事を終わらせたいと思います。
肩鎖関節脱臼後の理学療法評価と指導ポイント
さて本記事のメインテーマでもある肩鎖関節脱臼後の理学療法ではどのようなポイントを押さえていけばいいのか、前項までの内容をまとめます。
・肩鎖関節を囲むように関節包、肩鎖靭帯、僧帽筋と三角筋が付着する
・烏口鎖骨靭帯が鎖骨の上方変位を制御する
・屈曲では120°以降から鎖骨動態が始まる
・外転では運動初期から150°までにかけて鎖骨動態が生じる
ではこれらの中で肩鎖関節が脱臼した際、セラピストが介入して治療効果ができるものと期待できないものを分けて考えていきます。
①平面関節であること➡構造
②肩鎖靭帯、烏口鎖骨靭帯の断裂➔構造的な破綻
✔肩鎖関節脱臼の機能的な要素が多く理学療法の効果が期待できそうなもの
①肩鎖関節周囲に僧帽筋と三角筋が付着する➡僧帽筋と三角筋機能の改善
②挙上運動時の鎖骨動態➡肩甲帯周囲筋機能の改善
つまり、保存療法である理学療法を行う場合は肩鎖関節の動態に直接的に関与する僧帽筋や三角筋をはじめとする筋肉に対する治療であれば少なからず介入の余地がある。
ということです。
では本記事では僧帽筋、三角筋に対する介入について考えていきたいと思います。
僧帽筋上部線維は鎖骨外側1/3後縁に付着し鎖骨肩峰端の挙上とともに肩甲骨を挙上し、同時に肩甲骨の上方回旋に作用します⁹⁾。
三角筋前部線維は鎖骨が右側1/3前縁に付着し主動作として肩関節の屈曲や内旋、水平屈曲運動に作用します⁹⁾が、その走行から反作用(リバースアクション)として鎖骨を下方に引き下げる働きがあると言えます。
つまり、僧帽筋と三角筋は