
今回は、外来リハビリで多く担当するであろう肩関節周囲炎と関わりがある
Weitbrecht孔(ヴァイドブレヒトこう)
について記事を書かせていただきます。
早速ですが皆さんはWeitbrecht孔をご存知でしょうか?
・全く知らない
・聞いたことあるけど、詳しくはわからない
なんて人は意外に多いのではないでしょうか?
そこで今回は、、、
というテーマで記事を書かせていただきましたので、ぜひ最後まで読んでみてください。
①Weitbrecht孔って何?
結論からWeitbrecht孔とは、、、
肩甲下滑液包と肩関節腔を繋いでいる孔
です❗️
肩関節の周りには多くの滑液包が存在しています。
滑液包の役割といえば、組織同士の摩擦を軽減する❗️と覚えている方が多いのではないでしょうか。
簡単にまとめてみました。
肩関節は構造上、とても不安定な関節であり滑液包の特徴からも炎症が起こりやすい組織であることがわかります❗️
このような特徴を持つ滑液包ですが、『肩峰下滑液包』は多くの皆さんが聞いた事はあるのでは無いでしょうか?
肩峰下滑液包については研究生の柳沢さんの記事をご覧ください。
肩関節周囲の滑液包とWeitbrecht孔の位置は下記図を参照してください。
肩の周りにこれだけ滑液包が存在しているんですね‼️
Weitbrecht孔は
矢状面では上関節上腕靱帯と中関節上腕靱帯の間
前額面では肩甲下筋と関節包の間
に存在しています。
このように肩関節は他の関節と比べて付着している滑液包や筋肉が多い分、組織同士の癒着や摩擦ストレスが多いと言えるのではないでしょうか😄
その中でも肩甲下滑液包は上記以外の特徴があります。
それは、、、
肩関節腔の圧力を逃す働き
です。
肩関節腔は関節液で満たされており、関節内の摩擦軽減や関節の老化を防いでいます。
肩甲下滑液包は
関節液が肩関節の動きや何かしらの障害で肩関節腔に収まりきらなくなった際に一時的に逃げ込める場所
として存在しているのです❗️
そしてこの肩関節腔と肩甲下滑液包の通り道を″Weitbrecht孔″と呼び、
関節液を調整する働き
を担っているのです。
水の入ったタンクを二つ想像してみてください❗️
その二つのタンクの水を繋ぐ為にパイプが必要になります。
このパイプがあることで片方のタンクの水量が溢れてしまわないように、もう片方に水を流して調整してします。
これを肩関節に当てはめてみましょう
大きいタンク=『肩関節腔』
小さいタンク=『肩甲下滑液包』
パイプ=『Weitbrecht孔』
水=『関節液』
となります。
上記の図をご覧ください。
二つのタンク(肩関節腔と肩甲下滑液包)の通り道であるパイプ(Weitbrecht孔)が閉塞することで大きいタンク(肩関節腔内)の水(関節液)が小さいタンク(肩甲下滑液包)に流れ込めなくなってしまいます。
これらが起こることで、肩関節腔内の内圧が高まり、夜間時痛の要因の一つとなってしまいます。
拘縮肩例において肩甲下滑液包の閉塞が関節造影で確認されており関節液の行き場がなくなってしまうことで関節内圧の上昇が疼痛を引き起こすことになる。
著者:福島 秀拘ー拘縮肩へのアプローチに対する理論的背景ー
また、このような内圧の上昇が夜間時痛だけでなく、動作時痛や可動域制限にも関連していると考えます。
10mlと20mlの注入量においては20mlの方が挙上早期に内圧の上昇勾配が急激になり、また挙上・下降を通じてより高い内圧を呈したが圧パターン上特に大きな違いはみられなかった。
自動挙上と他動挙上の比較では自動挙上の方が早期に内圧上昇勾配が急激になる傾向を示し、全体を通じて高い内圧を呈した。
著者:柴田 陽三 ー肩関節における内圧的研究ー
このような報告もあり、挙上角度が増すごと(GH外旋も必要になるので)に関節内圧が高まります。
また、拘縮肩では滑膜の増殖により元々の関節包内の容量が低下しています。
その為、健常肩よりも関節内圧が上昇している事で、痛みを早期から感じやすくなっていると考えます。
関節包については僕が以前まとめた記事をご覧ください❗️
基礎的な内容になりますので、1〜3年目の方はぜひ読んでみてコメントいただける嬉しいです❗️
※下写真をクリックするとリンク先の記事が読めます
ここまでの内容でWeitbrecht孔と関節内圧の関わりはおおよそ理解していただけたのではないでしょうか。
では、なぜWeitbrecht孔が閉塞して、関節内圧が高まると“痛み″につながるのでしょうか?
今回はこの“痛み“についても少し深掘りしてみたので最後まで見てみてください😄
僕は臨床に出て現在2年目ですが、今まで拘縮肩の患者さんからこんな事を聞かれました。

と聞かれることが多かったです。
これに対して、
『今は炎症しているから痛いんだと思いますよ』
『肩の内圧が高まっているから痛みが強く出ちゃうんですよね』
と説明してきました。
きっとこれは間違いではないと思います。
ですが、
『どうして炎症してしまうのか?』
『どうして関節内圧が高まると痛いのか?』
を説明することはできませんでした。
なので今回は
そもそも″痛み″ってなんだろう?
という事から勉強していきたいと思います❗️
″痛み“について詳しく知りたい方は、研究生の佐藤さん(@masagaze)をフォローしましょう❗️
②痛みって?
痛みとは
『組織の実質的あるいは潜在的な障害に伴う、あるいは、それに類似した不快な感覚あるいは情動体験』
国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)より
このように当たり前かもしれませんが、痛みは感覚の一つなのです。
『痛み=悪者』
というイメージを持っていましたが、組織の損傷を警告してくれているという考え方もできます。
『痛み=感覚』
であるということは、痛みを感じ取る受容器が存在します。
その受容器が、、、
侵害受容器(自由神経終末)
です。
この侵害受容器が関節内圧に反応し″痛み″として感じているのではないかと僕は考えます。
関節内圧の変動による痛みや重だるさは肩だけでなく、膝やあらゆる部位で原因になっている可能性があります。
皆さんも臨床の中で一度は
「今日は天気が悪くて痛みが強いの」
なんて言われた経験があるのではないでしょうか??
③侵害受容性疼痛とは?
大きく分けて三つに分類されます。
今回は侵害刺激に対して侵害受容器が反応する侵害受容性疼痛を中心に説明します。
侵害受容性疼痛とは、、、
侵害刺激を受けた侵害受容器が脱分極し、伝導路を通り電気信号を中枢に送り″痛み″と感じる疼痛です。
痛みには『一次痛』と『二次痛』が存在します。
それぞれ受容器と伝導路が異なります。
これにより中枢まで送られる伝達速度も違います。
侵害刺激に反応する繊維は二つあり、Aδ繊維(一次痛)は伝達速度が速く、C繊維(二次痛)の伝達速度は遅いです。
神経ごとの詳細は下記図を参照してください。
④ポリモーダル受容器って?
侵害受容器は4種類に分類されます。
その中でも今回僕が注目したのはポリモーダル受容器です。
骨格筋や内臓の侵害受容器の大部分はポリモーダル侵害受容器であるといわれている。ポリモーダル侵害受容器は機械的刺激・温度刺激・科学的刺激のいずれにも反応ししかも非侵害性の刺激にも応じる。
著者:黒澤 美枝子ー痛みの生理学ー理学療法学15(3)73ー79、2000
このようにポリモーダル受容器は様々な刺激を侵害刺激として中枢に情報を送ってしまうのです❗️
さらに、中枢に情報を送るだけでなく、末梢部位つまり損傷部位に対してもサブスタンPなどの発痛増強物質(痛みの感受性を高める)を出現させたり、カルシトニンペプチドなどによる血流増加や透過性亢進を起こしてしまいます。
そしてこれが悪循環となることで、損傷部位が″疼痛過敏状態″となります。
難しい話になってきましたが、僕はこれが夜間時痛(関節内圧上昇による疼痛)に関係していると思っています。
特に長期間続く夜間時痛です❗️
↓
②持続的な侵害刺激に対して、ポリモーダル受容器が反応
↓
③肩峰下滑液包周辺の疼痛への感受性増加や血管拡張による血流増加
↓
④炎症部位(肩峰下滑液包)で疼痛過敏状態となり、夜間時の痛みが持続
↓
②に戻る
このような炎症や疼痛の悪循環が夜間時痛を長引かせてしまう要因の一つと言えるのではないでしょうか。
この悪循環を生み出さない為にも、Weitbrecht孔の影響を考えることは臨床においてとても大切と言えるのではないでしょうか❗️
⑤まとめ
最後に簡単なまとめになります❗️
・Weitbrecht孔が閉塞することで肩関節の内圧が高まり、夜間時痛の要因となる。
・夜間時痛にはポリモーダル受容器が関係しており、夜間時痛を長引かせる要因となる。
痛みが続く事は患者さんのQOLを下げてしまい、更なる身体活動の低下を招いてしまう可能性があります。
ここで僕が思ったことはこの悪循環を理学療法だけで崩すことができるのだろうか?という事です。
・肩峰下の内圧をあげないように後下方組織の伸長性を出す
・痛みが出ないようなポジショニング指導
など、、、
理学療法で出来ることはたくさんあると思います。
しかし、
理学療法だけでは足りないこともある。
とこの一年間で痛感しました。
僕は最近まで理学療法でなんとかしないと❗️という気持ちが強く、ドクターとの連携が不足してしまっていました。
夜間時痛が強い状態でも、ポジショニングなどで対応するのみで注射や服薬でコントロールするいう考え方が少なかったです。
ですが最近になって、理学療法で出来ないこともあるという事に気がつき、患者さんとの話し合いやドクターとの連携を今までよりも強く意識するようになりました。
当たり前な事ですが、患者さんの状態を把握し、ドクターと連携をとり注射や薬を処方してもらうことはとても大事な事であると再認識しました。
PTとして働いていく上で
自分に出来る事と出来ない事を明確にする事はとても大事
だと感じています。
今回の生理学的な内容が臨床に直結することはないかもしれませんが、Dr.との話し合いのきっかけや自身の理学療法の考え方の足しになってもらえれば嬉しいです❗️