腱板断裂修復術

皆さん初めまして。肩研サロンメンバーの谷口です。

 

鹿児島の総合病院で理学療法士として従事しています。

 

今回、肩研での記事を書かせて頂く機会を頂きましたので、少しでも皆さんの臨床のお役に立てれば幸いです。

 

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今回の記事のテーマは『腱板修復術』について解説していこうと思います。

 

早速ですが、皆さんは腱板修復術の術後患者を担当になった時、どんな手術をしているか見ていますでしょうか。

どの組織がどんな処置をされているのかを知る事で介入時のリスク管理にもつながってくると感じています。
この記事を読んで得られる情報
腱板断裂の発症要因と腱板修復術の適応』『術式』『合併症などについて知る事ができます。

腱板修復術は大きく以下の様に分別されています。

主な腱板修復術の種類
  • 直視下修復術
  • 鏡視下修復術
  • その他(筋腱移行術など)

現在は画像技術の発展に伴い鏡視下縫合術が主となっているのでこちらを掘り下げてみたいと思います。その前に、腱板の解剖を頭に入れておくと理解しやすいと思いますので、初学者の方は是非、こちらをご覧ください。

目次

  • 腱板断裂の発症要因
  • 腱板断裂サイズの変化
  • 腱板修復術の適応
  • 腱板修復術の種類(LHBの処置、Drの手術録含む)
  • 腱板修復術の合併症

腱板断裂の発症要因

腱板断裂の主な発症要因は外的要因内的要因に大別されます。

腱板断裂の発症要因1)
①外的要因
・肩峰下impinjement
 肩峰の形態(flat、curve、hook)、骨棘、os acromiate(肩峰の骨化核の癒合不全)、 
 大結節骨折の変形治癒などが関連
・外傷  
 スポーツ、職業による繰り返される微小外傷含む
②内的要因
・腱内の血流低下(特に高齢者) ・腱の加齢性変性  ・腱の炎症

外的要因の骨棘の確認はもちろんですが、屍体標本を使用した研究で肩峰の形態はhookタイプに腱板断裂が多いとの報告2)もありますので、この辺りも抑えておく必要がありそうですね。

内的要因は主に高齢者が多く、加齢に伴う血流不全の影響が腱の変性などに関与していると考えられます。

 

腱板断裂と関わりの深い上腕二頭筋長頭腱(LHB)の断面積を見ている報告もありますので参考までにご覧ください

平均CSA (上腕二頭筋長頭腱の断面積)は、、
症候性の回旋腱板断裂のある患者では21.0 mm 2(4〜71)
無症候性の回旋腱板断裂のある患者では19.9 mm 2(4〜75)
腱板断裂のない患者では14.1 mm 2(5〜43)
症候性および無症候性の両方の回旋腱板断裂のある患者の平均CSAは、回旋腱板断裂のない患者よりも有意に大きかった(p <0.001)。

TakahashiHypertrophy of the extra-articular tendon of the long head of biceps correlates with the location and size of a rotator cuff tear

腱板断裂の症例は、上腕二頭筋長頭腱がストレスを受けて肥厚している事が分かります。さらにLHBを支える肩甲下筋腱の断裂があると肥大が進むとも言われているようです。改めて肩甲下筋の大切さが分かりますね。

腱板断裂サイズの変化

腱板の小断裂に比べ、中断裂は拡大しやすい3)

広範囲断裂の48か月の保存的治療の報告では、肩甲上腕関節の関節症の進行と腱板断裂サイズの拡大、腱板筋の脂肪変性の進行を認め初回診断時に腱板の一次修復が可能であった症例のうち、半数は一修復不能となっています4)

他の報告では、広範囲断裂では腱の変性退縮、筋委縮や脂肪変性の予防の為にも3週間以内の手術が好ましい5)と言われています。

つまり断裂サイズが大きい症例では一次修復が可能な時期を見逃さない様に理学所見などをとり主治医に上申する必要性があると思っています。

腱板修復術の適応

腱板修復術の適応1)
・夜間時痛や動作時痛が強い
・日常生活に支障をきたす可動域制限や筋力低下がある
・保存的治療効果が不十分な場合

疼痛コントロールができない場合(多くは部分断裂~小断裂)

疼痛コントロールができても機能障害が残存する場合(多くは中~広範囲断裂)

手術を検討すると言われています6)

また画像診断で筋肉の脂肪浸潤を評価するgoutallier(グタリエ)分類があります。この文類のstage1~2までは一次修復の対象となります7)

腱板修復術の明確な基準はなく所属施設や主治医の意向によって左右されるとも言われているようです。

3カ月程度の保存療法で効果が出なければ手術を検討している施設が多いのではないでしょうか。

腱板修復術の種類

鏡視下腱板修復術(Arthroscopic Rotator Cuff Repair)とは?1)
・関節鏡(カメラ)を用いて行われる手術。小さな創(ポータル)を作成して関節鏡を挿入する為、組織への侵襲が少ない
 腱板を縫合する為のスーチャーアンカー(糸付きビス)を用いて腱板を縫合。
・画像技術の発展に伴い、腱板手術は劇的な変化を遂げ、1990年に入り腱板修復に対して使用される様になりました。
 臨床成績を向上させる為に様々な手術手技が開発されています。
術式を見ていく前に、Drの手術記録の一例を見ていきましょう。
・Drの手術記録(例)
SSP中断裂 SSCはintact    👉  棘上筋中断裂 肩甲下筋は良好 
GH滑膜増生+          👉  肩甲上腕関節の滑膜増生あり   
hidden lesion          👉  関節鏡で見えない部分の上腕二頭筋長頭腱、肩甲下筋腱損傷
LHBはHour glass sign+      👉  上腕二頭筋長頭腱はHour glass sign陽性
tenotomy施行 tenodesis施行 👉  上腕二頭筋長頭腱切除術施行 上腕二頭筋長頭腱固定術施行
C-Aligはfibrillation       👉  烏口肩峰靭帯は毛羽立っている
ASD、aclomioplasty施行     👉  肩峰下除圧術施行、肩峰形成術施行
SB法にて固定          👉  Suture bridge法にて固定
Drの手術記録は、左の様に英語で記載されてる事が多いと思います。私は英語が苦手で見ただけで難しいと感じてしまい一つ一つの単語をよく調べていませんでした。
ですが👉の様に日本語に修正し調べなおしてみると腱板の状態やどの組織を処置しているかが分かってきます。手術記録にはとても大事な情報が詰まっていますので是非、解読する習慣をつけていきましょう。
医師が主体のセミナーなどでも英語が良く出てくるのでその辺にも対応できるようになってくると思います👍
・Single row法(SR法)
大結節腱付着部(以下foot print)の近位部に骨溝を作成し、横1列にアンカーを配してで固定します
※骨溝より漏出した骨髄系幹細胞や増殖因子が腱骨付着部の修復を促進すると考えられています。

棘上筋損傷に対して最初に行われた方法と言われています。SR法は経骨孔縫合法よりも強固に固定されると言われています1)

ただし一点で固定している為、固定腱部に集中したストレスがかかってしまいます。

 

・Double row法(DR法)
foot printの近位部と遠位部に二列のアンカーを配してで固定します

Single rowに比べて腱断端と骨の接触面積が増える為、強固な固定や癒合促進の効果があります。

以前までの腱板修復術のゴールドスタンダードでした。

SR法とDR法の比較では、、
術後JOAスコアはSR法、DR法共に有意な改善がみられていますが、両者間に有意差はなく、術後cuff integrity(腱板修復状態)はDR法が有意に優れておりDR法の有用性が実証されています8)

つまり、腱板機能については両法とも向上したが、腱板状態に関してはDR法の方が良好SR法ではより再断裂の可能性が高い事が示唆されています。二点で固定している為接触面積が増えて癒合促進につながったり、固定部へのストレスが二点に分散される事が考えられます。

 

・Suture bridge法(SB法)
foot printの近位部に縫合糸がついた内側アンカーを設置し、腱板に糸を通し内側列を縫合して腱板を糸によってで押さえ込みます。(SR法とDR法は点で固定します)

foot print接触面積が広く接触厚圧が高い為、SR法やDR法よりも癒合促進に有用9)と言われています。

内側列を縫合すると縫合部に負荷が集中し、腱板が裂けてしまう恐れがある為、内側列を縫合しない術式もあるようです。この様に腱板が裂けてしまう事をチーズカットと表現されています。

特に広範囲断裂で腱板が関節窩側へ引き込まれている症例では、損傷腱板をfoot printまでなんとか引っ張りだしテンションがかかっている状態だと考え術後早期は縫合腱板が裂けない様に伸張や収縮ストレスに注意しながら介入を行っています。

 

・Surface-holding(SH法)
foot printの近位部に内側アンカーを作成します。 腱板にアンカー糸を通し、 大結節の外側に骨孔を作成し縫合糸を引き出し縫合します。

DR法と同等の初期固定力があり、腱板内圧縮応力が少ない(腱板内側列は縫合しない為)と言われています10)

外側アンカーがなく脆弱な骨でも使用可能のようです。

 

SH法とSB法との比較では、、
手術時間(3時間程度)は変わらず JOAスコアはSH法、SB法ともに有意に改善を認めました。
菅谷分類type Ⅳ以上を再断裂とすると、SH法は0例,0%,SB法は4例,9.8%と有意に高かったと報告されています。

腱板内側列を縫合しない事が再断裂の低下に関与していそうです。

 

簡単に術式についてまとめてみましたが、点で固定する術式よりも面で固定する術式の方が癒合が早く再断裂のリスクも低くなります。SR法などでは特に腱板縫着部へのストレスを考慮する必要性がありそうですね。
断裂腱板と骨との癒合には6~8週間を要するとの報告11)もあり、腱板修復術にかかる自動運動開始には考慮が必要といわれているようです。

 

その他の処置

ASD(肩峰下除圧術)

腱板修復術を行う前準備として、ASDを行い、肩峰下の滑膜を掃除し骨棘を削り肩峰下の除圧を行います。

また、腱板の引き出しが不良な場合は、断裂腱に癒着した関節包や烏口上腕靭帯も切離し腱板のモビライゼーションを行います1)

 

主なLHBの処置

腱板損傷や肩甲下筋損傷などでは、肩挙上時にインピンジメントなどを繰り返すことで、上腕二頭筋長頭腱が肥厚したり損傷してしまう事があります。

Hourglass sign(砂時計のサイン)は、肥厚した上腕二頭筋長頭腱の評価に有用で、肥厚した上腕二頭筋長頭腱は結節間溝の滑走不全の要因とも言われています12)

 

痛みの発痛源となりやすい為、腱板修復術の症例でも下記のような処理が行われる事が多くあります。

①腱切離術(tenotomy)

LHB付着部から切離する方法です。損傷したLHBを切離する事で痛みが軽減する効果があります。

ただし切離した断端が腱鞘内でcatchingを起こす事で痛みを残す可能性もあるようです。

その為、断端をT字型やじょうご型にして結節間溝内に引っ掛かかり痛みやpopeye signを生じにくくさせる"T"tenotomyやfunnel tenotomyなどtenotomyの術式も様々なようです。

②腱固定術(tenodesis)

LHBを切離しその断端を固定する方法。比較的若くて活動的な方に行う事が多いようです。

その術式は上腕骨の近位、遠位でアンカー固定する方法や、肩甲下筋腱に縫い付けるsoft tissue tenodesisなどとこちら術式は様々です。LHBは固定している為、術後早期の肘屈曲への抵抗は禁忌となります。

腱切離方法によっては術後の肩外転筋力や肘屈曲、前腕回外筋力は腱固定術よりも低かったと報告されているようです。

 

 ポパイサインはややtenotomyに多い        constantスコアはほぼ同等        LHBの痛みはtenotomyで軽減

この様な報告13)もあるので参考にしてください。

LHBの処置に関してまだ深く落とし込めていないので、また今後調べていこうと思います。

腱板修復術の合併症14)

1.神経障害

腋窩神経損傷 :肩関節拘縮に対する全修正切離術において下方の関節包切離を行った場合に損傷する事があります。

肩甲上神経損傷:肩甲切痕付近の腱板や後上方の関節包を切離する場合に損傷する事があります。

筋皮神経損傷 :烏口突起内側かつ遠位にポータルを作製する場合に損傷する事があります。

尺骨神経障害 :肩鏡視下手術による上肢の浮腫や外転枕による肘関節圧迫の為、術後に尺側指の痺れを訴える事があります。

尺骨神経麻痺は外転装具装期間中に生じやすく、尺骨神経の通り道である肘関節の内側を圧迫しない様に、外転装具の間にタオルを あて除圧を行うと反応が良いです。

2.腋窩動脈損傷

烏口突起内側には腋窩動脈及び腕神経叢が走行しており、手術時に損傷してしまうリスクがあります。

 

3.骨折

肩峰骨折:ASDの際に肩峰下面を削りすぎると、肩峰骨折を生じる危険性があります。

鎖骨骨折:ASDの際に肩峰下面と間違い鎖骨下面を削ってしまう事がごく稀にあるようです。

上腕骨骨折:骨粗鬆症既往のある肩関節拘縮患者に対して鏡視下関節包解離術後にマニプレーションを行う際に生じる事が

      あります。

 

4.肩関節拘縮

鏡視下腱板修復術後は一定期間肩関節を固定する必要があり、拘縮が生じてしまう事があります。

Hubertyらは、鏡視下腱板修復術後の肩拘縮発生の危険因子として、50歳以下、石灰化の存在、術前からの拘縮、部分断裂、小さな完全断裂、糖尿病であると報告しています15)

個人的に糖尿病の既往がある方に多い印象があります。循環や免疫反応不全の影響が関与しているのかなと感じています。

 

5.複合性局所疼痛症候群(CRPS:complex regional pain syndrome)

肩の鏡視下術後に手指の腫脹、痺れ、拘縮が生じ、肩に強い痛みを訴える場合はCRPSを疑います。

 

6:術後感染

術後感染は稀だが、早期に対処しないと骨髄炎や二次性の変形性関節症につながる危険性があります。

発熱、疼痛、発赤などの感染兆候を認めたら早期に主治医へ報告しましょう。

 

まとめ

・腱板断裂の要因は外的要因内的要因に大別されている。

・腱板断裂サイズの拡大は、断裂範囲が大きいほど広がりやすく早期手術も検討。

・腱板修復術の術式において、点で固定する方法よりも面で固定する方が再断裂のリスクが少ない
 LHBの処置なども含め術後早期は固定部や縫合部にストレスが加わらない様に理学療法を行う必要がある。

・どんな合併症があるのか知り、その症状に気付き早期に対応できるようにする。

長文になってしまいましたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。

腱板修復の術式や他の組織の処置、合併症などを知る事で、介入時の注意点などが少し見えてくるのではないでしょうか。

まだまだ私自身落とし込めていない点が多いので、様々な術式などの知見を調べて臨床に活かせる様にしていきたいと思っています!皆さんから修正点や文献紹介、アドバイス等、DMで頂けるととても嬉しいです。

参考文献

1)末永直樹:肩関節再建術 -腱板断裂,肩関節不安定症の治療戦略

2)bigliani lh.et al.the morphology of the acromion and its relationship to rotator cuff tears.OrthopTrance.10,1986,228.

3)中邑祥博ほか.保存療法を行った腱板断裂の断裂サイズ・部位の変化.肩関節.38(4)20141060

4)Zingg,PO.et al:Clinical and structural outcomes of nonoperative management of massive rotator cuff tears. J Bone Joint Surg Am. 2007 Sep;89(9):1928-34

5)Bassett RW, Cofield RH. Acute tears of the rotator cuff. The timing of surgical repair. Clin Orthop Relat Res. 1983 May;(175):18-24. PMID: 6839586.

6)栫博則:腱板断裂診断・治療のフローチャート

7)Goutallier D, Postel JM, Bernageau J, Lavau L, Voisin MC. Fatty muscle degeneration in cuff ruptures. Pre- and postoperative evaluation by CT scan. Clin Orthop Relat Res. 1994 Jul;(304):78-83. PMID: 8020238.

8)菅谷啓之:鏡視下腱板縫合術における術後MRI所見と臨床成績 -単層固定法と重層固定法の比較-

9)Park MC, ElAttrache NS, Tibone JE, Ahmad CS, Jun BJ, Lee TQ. Part I: Footprint contact characteristics for a transosseous-equivalent rotator cuff repair technique compared with a double-row repair technique. J Shoulder Elbow Surg. 2007 Jul-Aug;16(4):461-8. doi: 10.1016/j.jse.2006.09.010. Epub 2007 Feb 22. PMID: 17321161.

10)松浦 健司:腱板小・中断裂に対するSurface-holding法とSuture-bridge法の比較

11)藤井幸治:鏡視下腱板修復術後早期の他動運動訓練開始時間は術後3か月の肩関節可動域に影響するか?

12)Boileau P, Ahrens PM, Hatzidakis AM. Entrapment of the long head of the biceps tendon: the hourglass biceps--a cause of pain and locking of the shoulder. J Shoulder Elbow Surg. 2004 May-Jun;13(3):249-57. doi: 10.1016/j.jse.2004.01.001. PMID: 15111893.

13)X.ClementPopeye: sign: Tenodesis vs. self-locking “T” tenotomy of the long head of the biceps

14)石橋恭之 三幡輝久:肩関節鏡視下手術 ビジュアル・サージカルテクニック 文化堂

15)Huberty DP, Schoolfield JD, Brady PC, Vadala AP, Arrigoni P, Burkhart SS. Incidence and treatment of postoperative stiffness following arthroscopic rotator cuff repair. Arthroscopy. 2009 Aug;25(8):880-90. doi: 10.1016/j.arthro.2009.01.018. PMID: 19664508.

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