
皆さんこんにちは。肩関節機能研究会 研究生の神藤です!
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前回の記事は読んで頂けましたでしょうか?
今回の記事の内容が入りやすくなるかと思うので、ぜひ一度目を通してみて下さい!
②リバース型人工肩関節置換術(reverse total shoulder arthroplasty:以下RSA)
③人工骨頭置換術
前回の記事でもご紹介したように、人工肩関節置換術は大別すると以下の3種類があります。
今回の記事ではRSAについて書いていきたいと思います!
では早速本題に入っていきましょう!
RSAの適応
RSAは1980年代にフランス人のGrammontによって、高度の腱板機能障害を伴う変形した肩関節をもつ症例に対して、三角筋のみで上肢を挙上できる人工肩関節として開発されたものです。日本で臨床使用が開始されたのは先進国の中で最も遅く、2014年4月から利用されたとのことです。1)
RSAの主な適応疾患は以下のものが挙げられます。
一方以下の場合は適応外とされていました。
- 三角筋機能不全
- 100°以上の挙上可能
- 修復可能な腱板断裂
後述しますが、RSAでは三角筋機能がとても重要な役割を担います。そのため、三角筋機能不全は適応外とされています。
また、RSAはあくまで「治療の最終手段」とされており、挙上可動域が100°以上確保されていたり、腱板が修復可能であった場合適応外とされています。
しかし近年ではインプラントの開発・発展により適応が広がってきています。
- 上腕骨近位端 3,4part骨折
- 陳急性肩関節脱臼
- 高度な腱板機能障害を伴う関節リウマチ肩
- 人工肩関節置換術後の再置換術
- 腫瘍
など様々な疾患に適応となっています。1)2)3)
RSAの特徴
RSAの大きな特徴として、上腕骨頭と関節窩の凹凸が反転していることが構造上の大きな違いとなります。RSAでは上腕骨頭側が凹面となり、関節窩面が凸面の形状となっています。
この変化によりどのような違いがあるのでしょうか?
RSAではTSAと比較して以下のような変化を認めます。4)
上記イラストのように、正常肩やTSAでは回転中心が上腕骨頭中心に存在していましたが、RSAでは関節窩上に位置するようになり、回転中心が内方化します。
関節中心が内方化することで、回転中心から三角筋までの距離が遠くなります。つまり、三角筋のモーメントアームが延長します。
また、上腕骨が下方に引き下げられることで三角筋の筋長が増大します。
これらによりRSAでは三角筋前部・後部線維が肩関節外転時に動員される量が増え、肩関節外転時の三角筋外転筋効率が30%向上するとされています。
しかし、三角筋後部線維が外旋のモーメントが低下し、大胸筋、広背筋などの内旋モーメントが有意になることも示唆されています。4)
加えてインプラントの形状による安定性も重要です。RSAでは関節窩と上腕骨のコンポーネント曲率半径は一致しており、安定性はTSAの2~3倍あるとも報告されており、大きな関節安定力を有しています。4)
これらのような生体力学的特徴をRSAは有しています。
RSAの合併症
RSA術後では多くの合併症が報告され、デザインの改良が繰り返されています。RSA術後に認める合併症は以下のものがあります。
・不安定性(9306肩中308肩ー3.3%)
上記のように様々な合併症を認めます。今回の記事では中でも割合の多い肩甲骨のノッチングについて触れていきます。
肩甲骨のノッチングというのは肩甲骨頚部にみられる切痕状骨欠損像をさす様です。
原因としては以下のものが挙げられています7)。
・肩関節内転時に上腕骨側のカップと肩甲骨頚部のインピンジメント
「切痕状骨欠損像」というと難しいですが、接触により肩甲骨が欠けてしまうイメージで良いのかなと思います。
これらは上肢の挙上初期に生じる肩甲骨の過剰な挙上・上方回旋により生じるとされています。
通常の肩関節では一般的に言われている「肩甲上腕リズム」というものがありますよね!
肩甲上腕リズムとは肩関節外転挙上時に肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の活動量の比率が2:1となるという考え方です。
RSAではこの「肩甲上腕リズム」の比率が変化するとされています。
というのもRSAでは健常肩に比べ上腕骨に対して肩甲骨の動きが大きくなると報告されています。
比率としては1.3~1.4:1になると報告されているものが多いです。8)
このように、RSAでは肩甲骨上方回旋が多く要求されるため、肩甲骨のノッチングのリスクがあります。
その合併症を解消するためにデザインの修正が繰り返されているので、次の項で触れたいと思います。
RSAの術式
侵入方法はTSAとは変わらず三角筋-大胸筋間からのアプローチ(deltopectoral approach)、前上方三角筋アプローチ(anterosuperior transdeltoid approach)が選択されることが多いようです。復習がてら前回のイラストを載せておきます。
内容としては前回の記事を参照してください!
前述した肩甲骨のノッチング等の合併症を解消するためや機能向上のためにデザイン改良が繰り返されています。
in-lay type と on-lay type
RSAの機種は大きく分けて2種類に分けられます。in-lay typeとon-lay typeです。
従来の型がIn-lay typeであり、合併症有病率の軽減や関節可動域の向上を目的に改良されてOn-lay typeが使用されました。
In-lay typeでは上腕骨近位部がグレノスフィアの下方に位置しやすく、肩関節内転時にインサートの内側上方部が肩甲骨関節窩の下方と衝突を起こしやすく、肩甲骨のノッチングが生じやすいです。
また、肩関節の回転中心が内側に移動し、上腕骨が下方に設置されることから正常肩よりも上方に三角筋ベクトルが働くことで、脱臼しやすくなります。
それに対してon-lay typeでは上腕骨の引き下げ量が少なく、上腕骨が外方化することで残存腱板や三角筋の緊張が高まり、肩関節の安定性が向上する利点があります。11)
上腕骨の下方引き下げは腕神経叢への過度な下方牽引が生じるリスクがあり、神経障害の原因とも言われています。
神経障害はが三角筋延長が27mm以上ではリスクが上昇するとされています。12)
In-lay typeでは三角筋延長が平均23mm、On-lay typeでは平均14mmとなっているようで、27mmには満たないですが、軟部組織の瘢痕形成が存在している場合、引き下げ量が問題なくても瘢痕組織による神経牽引がかかり神経症状を認めることがあるようです。
このように合併症が生じないように改良が繰り返されているようです。
日本では導入されてから8年ほどなので、これから長期経過の報告が増えてくるかと思われるので、最新情報を抑えていきたいですね!
まとめ
・RSAでは合併症の有病率を軽減するために、改良が繰り返されており、ステムにはIn-lay typeとOn-lay typeがある。
いかがだったでしょうか。
RSAを担当する機会はあまり多くはないかと思いますが、担当した際に皆さんの臨床の一助となるような記事となっていれば幸いです。
今回の記事ではボリュームが多くなってしまうため、「関節可動域の成績」と「介入方法」について触れられていないので、次回の記事で書かせて頂こうかと思います!
まだまだ僕自身経験も浅く、至らぬ点が多いかと思いますので、アドバイスや修正点があればDM等でご教授頂けたら幸いです!
ご拝読ありがとうございました!
参考文献
1)菅谷 啓之,高村 隆:機能でみる 船橋整形外科方式 肩と肘のリハビリテーション.株式会社 文光堂.pp151-166.2019
2)Thomas Kozak et. An update on reverse total shoulder arthroplasty: current indications, new designs, same old problems.EFORT Open Reviews, 6(3), 189-201. Retrieved Mar 17, 2022
3)Familiari, F et. Reverse total shoulder arthroplasty, EFORT Open Reviews, 3(2), 58-69. Retrieved Mar 17, 2022.
4)Rugg CM et. Reverse Total Shoulder Arthroplasty: Biomechanics and Indications. Curr Rev Musculoskelet Med. 2019 Dec;12(4):542-553.
5)Sarav S. Shah, MD et. The modern reverse shoulder arthroplasty and an updated systematic review for each complication: part I.VOLUME 4, ISSUE 4, P929-943, DECEMBER 01, 2020
6)Sarav S. Shah, MD et. The modern reverse shoulder arthroplasty and an updated systematic review for each complication: part II. VOLUME 5, ISSUE 1, P121-137, JANUARY 01, 2021
7)前田 卓哉.リバース型人工肩関節置換術後の肩甲骨機能と術前因子の関連性.理学療法学 第47巻第3号 pp224~230.2020.
8)Walker.Scapulohumeral rhythm in shoulders with reverse shoulder arthroplasty:2015.
9)中野 禎.リバース型人工肩関節置換術後症例の肩関節周囲筋の筋電図学的分析-健常肩との比較-.理学療法学.2020
10)大野 洋平.外側型RSA(reverse shoulder arthroplasty)の現状:関節窩側外側化.Orthopaedics Monthly Book 39-50.2019.
11)横矢 普.外側型RSA(reverse shoulder arthroplasty)の現状:上腕骨外側化 .Orthopaedics Monthly Book 51-56.2019.
12)桐原 憲吾.RSA(reverse shoulder arthroplasty) 術後不安定性の要因と対策 .Orthopaedics Monthly Book 69-77.2019.