Shoulder shrug signの病態と臨床応用

こんにちは。
肩関節機能研究会 代表の郷間です。
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左:共同代表 志水康太先生 右:郷間

今回は凍結肩の臨床で頻繁にみられる『Shoulder Shrug Sign』についての解説していこうと思います。

 

本記事を読むことで

①Shoulder shrug signとはそもそも何か
②Shoulder shrug signの構造的な解釈について
③Shoulder shrug sign評価と考察

について理解することができます。

セラピストの中には『Shoulder Shrug Sign?聞いた事ないなぁ』と思った方も、実は皆さんの担当されている患者さんの中にも多くみられる徴候ですので、本記事をきっかけに覚えていただけると幸いです^^

Shoulder Shrug Signとは?

英語と意味
Shoulder=肩
Shrug=すくめる
Sign=徴候

直訳すると文字通り”肩をすくめる徴候”ですね。

ちなみにGoogleで「Shrug 画像」と検索するとこのような画像が出てきます。

とても楽しそうな画像ですね(^^)
しかし医学的に用いるShrugは少し動きが異なります。

Shoulder Shrug Signとは
肩甲骨を挙上させることなく上肢を 90°外転できないこと¹⁾

  

このように肩関節を90°外転しようとすると肩甲骨が代償的に挙上・上方回旋してしまう現象は皆さんも日々の臨床で遭遇したことはありませんか?

私は初回評価はもちろん、凍結肩の患者さんの大半にスクリーニング評価として用いています。

そもそもなぜこのような現象(徴候)が生じてしまうのでしょうか?

まずは構造的なところから私なりの考えも交えて解説していきたいと思います。

Shoulder shrug signの構造的な解釈

肩関節は挙上の際、大結節は3つの経路を通過しており、それらの経路も前方路、中間路、後外側路と3つに分けられるため、理論上は9つに区分されます²⁾。

大結節が通過する3つの経路
Pre-rotational glide  0~80°
rotational glide  80~120°
Post-rotational glide 120°以降
運動により異なる経路
前方路:屈曲運動
中間路:肩甲骨面上挙上
後外側路:外転運動
※補足 内外旋でも異なります

そのなかでも今回は大結節が通過する3つの経路について少し掘り下げていきたいと思います。

Pre-rotational glide

Pre-rotational glide 挙上0~80°の時期のことで、大結節が烏口肩峰アーチを通過する前段階の区間のことを言います。

基本的には0~80°の時点で可動域に制限が生じる場合は肩峰下インピンジメント以外の要素を考えるのが妥当であることがわかります。

この時期での挙上制限因子として最もポピュラーなのは腋窩周囲(肩関節下方軟部組織)の柔軟性、伸張性低下によるものが考えられます

rotational glide

rotational glide挙上80~120°の時期のことであり、大結節が烏口肩峰アーチを通過中の区間のことを言います。

この時期はPainful arc sign(有痛弧)の60~120°とも少し似ていますね。
ちなみにPainful arc signは肩に痛みが生じる場合は腱板断裂の感度が71%、特異度が81%であり、疼痛誘発試験としても有名ですね³⁾。

この時期の痛みや可動域制限は、肩峰下インピンジメントの影響が最も多いとされています。

Post-rotational glide

Post-rotational glide は挙上120°以降の時期のことであり、大結節が烏口肩峰アーチを通過後の区間のことを言います。

この時期の可動域制限も臨床では頻繁にみられるところではありますね。
大結節が烏口肩峰アーチを通過したからと言って必ずしも軽快に可動域が獲得できるというわけではないですね。

軟部組織としては大円筋や小円筋の可動域制限が多い印象です。

これらに関しても改めて記事を執筆いたしますので追々お待ちください(^-^)ノ

それでは実際に各区間を通過する動画を供覧してみましょう。

このように正常であれば大結節が烏口肩峰アーチを円滑に通過します。

これらのことから、Shoulder shrug signが生じている場合はPre-rotational glide(0~80°)を除外したrotational glideおよびPost-rotational glideで何らかの破綻が生じていることが考えられます。

では、ここまで解説した大結節と烏口肩峰アーチの部分だけに何らかのアプローチをすれば必ずShoulder shrug signは改善できるのでしょうか?

恐らく答えは”NO”だと思います。

そもそもShoulder shrug signは自動運動です。

自動挙上運動は肩甲上腕関節のみで遂行しないですよね。

確かに挙上動作のほとんどは肩甲上腕関節により遂行していることは事実ですが、肩甲胸郭関節や胸鎖関節、肩鎖関節など様々な関節が複合的かつ複雑に共同して1つの動作を成し遂げています。

これらを理解しておくことでさらに臨床成績も上がりそうですね。

Shoulder shrug signの評価と考察

原因①:外転筋の機能低下

Shoulder shrug signが陽性の場合は

端坐位で自動外転運動を90°まで行った時に肩甲骨挙上が顕著にみられるにもかかわらず、

他動的に外転した場合は問題ないにも関わらず、自動的な外転運動では肩すくめが生じてしまう場合は純粋な肩関節外転筋力の低下を疑います。

外転筋力が低下している場合➡三角筋や棘上筋の機能低下を疑ってみましょう

※棘下筋斜走線維も外転作用あり。

原因② 下方軟部組織のタイトネス

もし背臥位や座位で他動的に90°外転位に行かない場合は、筋力ではなく、肩関節下方軟部組織のタイトネスを疑います

下方軟部組織は大きく分けて3つあります

■後下方軟部組織の分別
①前下方軟部組織:肩甲下筋、大円筋、広背筋、前下関節上腕靭帯
②下方軟部組織:前下方軟部組織+後下方軟部組織
③後下方軟部組織:棘下筋、小円筋、後下関節上腕靭帯
これら3つを分解してどこに原因があるのかを考えてみましょう。

例えば
ニュートラルや内旋位外転運動に比べて、外旋位外転で可動域制限が顕著の場合は①の前下方軟部組織のタイトネスが疑われますね。

逆に
ニュートラルや外旋位外転運動に比べて、内旋位外転で可動域制限が顕著の場合は③の後下方軟部組織のタイトネスが疑われます。

ちなみに個人の見解ですが、臨床上多くみられるのは後下方軟部組織のタイトネスによる可動域制限です。

その場合は外旋位外転だとShrugが生じないにも関わらず、内旋位外転だとShrugが顕著になる症例が多いですので、皆さんも多くの患者さんで実際に内外旋を加えて評価して変化を感じてみましょう。

原因③肩甲上腕関節、第二肩関節の構造的かつ器質的問題

最後になりますが、必ずしも筋力や軟部組織のタイトネスだけがShoulder shrug signの原因となるわけではありません

それは構造的かつ器質的に破綻していることによる外転制限です。

こちらのスライドにあるような病態の場合は暴力的に外転可動域の獲得を試みると、疼痛増悪や骨棘の増生など保存療法では治すことのできない病態にまで増悪してします恐れがありますので、しっかりとリスクファクターを除外した上で安全かつ的確にアプローチをしてみましょう!

ということで本日はここまでになります。

最後まで読んでいただきありがとうございました(^-^)ノ

まとめ

✔Shoulder Shrug Signとは肩をすくめる徴候である
✓挙上の交通路には3つある
 1.Pre-rotational glide  0~80°
 2.Rotational glide  80~120°
 3.Post-rotational glide 120°以降
大結節が通過する経路は3つある
 1.前方路
 2.中間路
 3.後外側路
✓Shoulder shrug signの原因はいくつかある

 例1)外転筋の機能低下
 例2)下方軟部組織のタイトネス
 例3)肩甲上腕関節、第二肩関節の構造的かつ器質的問題

参考文献 参考書籍

1)Jia,X.et al. Clinical Evaluation of the Shoulder Shrug Sign. Clin Orthop Relat Res .2008; 466:2813–2819

2)信原克哉:肩 その機能と臨床 第3版,医学書院,2001.

3)腱板損傷のMeta-analysis JAMA Rational clinical examinationより (JAMA. 2013;310(8):837-847.)

 

 

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郷間
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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