
こんにちは。
肩関節機能研究会の郷間(@FujikataGoma)です。
今回は反復性肩関節脱臼(dislocation of the shoulder)について病態やその特徴、介入で意識すべきことについてお話していきたいと思います。
本記事を読んでいただく事で
②担当した肩関節脱臼患者の年齢と性別を意識した介入をする
③固定方法(保存)と固定期間を意識した介入をする
肩関節脱臼の病態だけでなく、評価、保存療法・術後療法までを幅広くカバーした内容となっています。
特に治療について知りたい方はぜひ!
参加者全員にはPDF資料約150枚を配布!ぜひ、自身の学習や後輩や同僚へのプレゼンにも使用してください!
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▪女性の初回肩関節脱臼の発生は50代以降が多い
▪脱臼後、内旋位固定よりも外旋位固定のほうが再脱臼率が低い
▪初回脱臼後、2年以内に再発する可能性は15歳男性で86%、女性で54%と男性の方が圧倒的に高い。
▪再脱臼は全体のうち、86.7%が2年以内に発症している
▪2年以上再脱臼をしなければ脱臼リスクは約10%まで減少する
これらの項目を覚えておくだけで、初回介入時に焦ってしまうことや病態・状態の説明に迷ってしまうことはほとんど無くなります。

肩関節脱臼とは
皆さんもご存じかと思いますが、肩関節脱臼とは文字通り
『肩甲上腕関節を構成する上腕骨が肩甲骨の関節窩から脱臼すること』を言います。
一般的には外傷性肩関節脱臼が最も多く、転倒や衝突など強い外力が肩関節に加わることで受傷します。
肩関節脱臼の合併症
肩関節脱臼にはいくつか合併症がありますが、本記事ではもっとも有名な2つの病変をご紹介します。
症例によっては肩甲骨関節窩の前縁(前下縁)の骨折損傷も生じる病態。
なぜ前方軟部組織の損傷が多いのでしょうか?
理由は肩関節脱臼のほとんどが前方脱臼であることが挙げられます。
また、Bankart病変が生じると、肩関節前方軟部組織が緩い状態になるため、再脱臼リスクも高くなります。
保存療法では肩甲下筋の機能改善が最も一般的ですね。
Hill-sachs病変はあまり馴染みのない方も多いかと思います。
Hill-sachsは脱臼後、関節窩の前方と上腕骨頭の後外側が”噛み込む”ことにより生じ、脱臼後の整復に難渋する例も多いそうです。
⇩Bankart病変とHillsachs病変の解説動画⇩
年齢と性別で異なる初回肩関節脱臼の発生率
前方肩関節脱臼に関する疫学調査
▪初回脱臼の頻度 男3:女1
▪男性の初回肩関節脱臼の発生は10~20代が多い
▪女性の初回肩関節脱臼の発生は50歳以上が多い
Leroux,et al:Epidemiology of primary anterior shoulder dislocation requiring closed reduction in Ontario, Canada.AJSM.2014; 42(2):442-50
Lerouxらの報告によると男性は10~20代で初回脱臼を発症することが多く、合併して関節唇や靭帯も損傷することが多いようです。
一方、女性は50歳以上で初回脱臼を発症することが多く、腱板断裂を伴う例が多いようです。
脱臼と腱板断裂の関係
▪50歳以上の初回脱臼は51.5%で腱板断裂を認めた
▪その90%以上が大断裂以上で合併していたRoger Berbig,et al:Primary anterior shoulder dislocation and rotator cuff tears.JSES.1999; 8(3): 220-225
また、Berbigらは50歳以上の初回脱臼は51.5%で腱板断裂を認め、その90%以上が大断裂以上で合併していると報告しています。
手術適応についてはセラピストである私たちが言及できることは少ないですが、
年齢や性別、活動量(スポーツレベルや職業内容)により治療方針も異なるということだけは理解しておきましょう(^^)
内旋位固定vs外旋位固定~メリットとデメリット~
次に脱臼後の固定方法についてみていきましょう。
肩関節が脱臼をしてしまった場合、基本的には肩関節を一定期間固定します。
固定方法には大きく分けて2種類あり
1.内旋位固定(もっとも一般的な固定方法。三角巾など)
2.外旋位固定(外旋装具を使用※上のスライド内の右下図)
では、これら2種類の固定方法ではどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
まずは利便性について考えてみましょう。
検討① 利便性 内旋位固定 vs 外旋位固定
固定方法の検討①
▪外旋位固定は不便かつコンプライアンスも不良である
Itoi Eiji,et al :Position of immobilization after dislocation of the glenohumeral joint. A study with use of magnetic resonance imaging.JBJS Am. 2001;83(5):661-7.
はい。利便性やコンプライアンス、審美的にも内旋位固定に圧倒的軍配が上がりましたね。
利便性=内旋位固定
では次に再脱臼率について検討していきましょう!
検討② 再脱臼率 内旋位固定 vs 外旋位固定
固定方法の検討②
脱臼患者40名のうち内旋位固定群20名、外旋位固定群20名で再脱臼率を検討した。
結果は平均15.5か月で再脱臼率は
▪内旋位固定では再脱臼率は30%
▪外旋位固定では再脱臼率が0%
また、再脱臼した症例は30歳未満に多かった。
Itoi Eiji,et al :A new method of immobilization after traumatic anterior dislocation of the shoulder a preliminary study.JSES.2003;12(5):413-5.
内旋位固定だと15.5か月以内に6/20人(約30%)が再脱臼するのに対して、外旋位固定では1人も再脱臼をしなかった(0%)…
これは凄い結果ですね。
学生スポーツやプロスポーツにおいては”早期復帰”が求められる傾向にありますが、再受傷(再脱臼)をいかに減らすか??も永遠のテーマですよね。
再脱臼率という観点から考えると、今回は外旋位固定に軍配が上がりましたね。
再脱臼リスクの低さ&安全性=外旋位固定
なぜ外旋位固定のほうが予後がいいのか?
肩関節脱臼後の固定位置について~MRIを用いた研究~
▪内旋位固定では肩甲下筋が弛緩し、関節唇(白矢印)が内側に転位する。
▪外旋位固定では肩甲下筋が緊張し、関節唇が正常な位置で固定される。
▪外旋位固定で肩甲下筋が緊張することで、関節液(血種)は後方へ移動する。
Itoi Eiji,et al :Position of immobilization after dislocation of the glenohumeral joint. A study with use of magnetic resonance imaging.JBJS Am. 2001;83(5):661-7.
Itoiらの報告からも、外旋位固定は組織修復や癒着瘢痕等の予後も良さそうですね。
ということで、肩関節脱臼後の内旋位固定 vs 外旋位固定をまとめると
という結果になりました。
基本的に、最終判断は主治医と患者様で決定する内容ではありますが、
私は極力診察に同行し医師、患者(可能であれば家族も)、理学療法士の最低3人以上で話し合って方針を決定していただけるよう心掛けております。
脱臼後の固定期間
ここは必ず抑えておいていただきたい内容です。
初回脱臼の固定期間は3週間以上の固定から再脱臼リスクが顕著に減少します。
そして面白いのが、3週間以降の長期固定を実施しても再脱臼率は変わらないというところです。
肩関節前方脱臼後の再脱臼率
・脱臼初日~2日は61.5%
・3~7日は36.7%
・7~21日は42.9%
・21日~3.4%
・3~6週固定と6週以上の固定に再脱臼率の有意差なし
Simones WT: Prognosis in anterior shoulder dislocation. AJSM Am.1984; 12: 19-24
Simonesの報告は1984年のものですが、
現代でも保存療法(固定療法)では肩関節拘縮の予防も含めて3週間が多いようですね。
※症状や年齢、施設の設備、求められる運動レベルや復帰時期によっても固定期間は変わってくるので予めご了承ください(^-^)
以上で今回はおしまいにしたいと思います。
少し難しい内容ではありますが、初めて脱臼された患者は”どのくらい良くなるのか?”、”また脱臼してしまわないか?”と不安に駆られている場合がほとんどです。
そんな時こそ”数字的(数値的)な説明”も加えることで、説得力も増してくるかと思います(^-^)
ぜひ、今回の数字的なポイントは覚えて日々の臨床に活かしていきましょう!
以上、肩関節機能研究会の郷間でした。
まとめ
✓男性の初回肩関節脱臼の発生は10~20代が多い
✓女性の初回肩関節脱臼の発生は50歳以上が多い
✓脱臼後、内旋位固定よりも外旋位固定のほうが再脱臼率が低い
✓固定期間を3週以上にすることで再脱臼率が激減する
✓3週間以降の固定は3週間固定と比べてもほとんど変わらない
また、今月の24日には、この記事よりもさらに深ぼった脱臼・骨折に関するセミナーを開催します!
肩関節脱臼の病態だけでなく、評価、保存療法・術後療法までを幅広くカバーした内容となっています。
参加者全員にはPDF資料約150枚を配布!ぜひ、自身の学習や後輩や同僚へのプレゼンにも使用してください!
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参考文献
- Leroux,et al:Epidemiology of primary anterior shoulder dislocation requiring closed reduction in Ontario, Canada.AJSM.2014; 42(2):442-50
- Roger Berbig,et al:Primary anterior shoulder dislocation and rotator cuff tears.JSES.1999; 8(3): 220-225
- Itoi Eiji,et al :Position of immobilization after dislocation of the glenohumeral joint. A study with use of magnetic resonance imaging.JBJS Am. 2001;83(5):661-7.
- Itoi Eiji,et al :A new method of immobilization after traumatic anterior dislocation of the shoulder a preliminary study.JSES.2003;12(5):413-5.
- Simones WT: Prognosis in anterior shoulder dislocation. AJSM Am.1984; 12: 19-24