
こんにちは。
肩関節機能研究会 代表の郷間です。
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普段から肩関節の臨床に関わる人であれば少なくとも一度は腱板断裂を呈した患者様に関わったことはあると思います。
"腱板断裂”というと『腕が上がらなそう』、『痛みが強そう』と認識されている人も多いですが決してそんなことはありません。
重要なのは『どのくらいの断裂で、残存組織の機能がどの程度か』という点です。
また、腱板断裂は決して稀な疾患ではなく70歳以上の3人に1人が罹患している疾患です¹⁾²⁾。
言葉は選びますが、患者様で強い不安を抱かれている場合は『年を重ねるとシワができてきたり、白髪が生えたり、体力が落ちてくるのと一緒で、個人差はありますが70歳以上の3人に1人は断裂しているんですよ。そしてほとんどの人は断裂していることがわからないくらい普通に生活されているので安心してくださいね』とお伝えしています。
私たちは診断を下すことはできませんが、主治医の診断・指示のもと最善、最短で良くなる方法を試行錯誤しながら一緒に治療していくことはできます。
ですので今回は諸家の報告をもとに腱板断裂の疫学、評価について紹介させていただきます。
では早速、腱板断裂の種類・分類から見ていきましょう。
部分断裂と全層断裂
腱板断裂には大きく分けて部分断裂と全層断裂があります。
部分断裂とはMRIなどで斜位前額断からみて深層から浅層のうちいずれかが断裂している病態を指します。
全層断裂とは深層から浅層まで全ての層が断裂していることを指します。

注意点は斜位前額断(正面)からみて全層が切れていたとしても、斜位矢状断(横)から見てほんの1ミリしか断裂していないものもあれば、逆に斜位前額断からみると部分的に断裂しているように見えても矢状断からみると何十ミリも断裂している。
というケースもあるということです。

つまり、断裂を把握する場合は1方向のみではなく、最低2方向以上から断裂をみて病態を把握するべき、ということです。
では、浅層断裂の分類をもう少し詳細に説明していきます。
部分断裂の分類³⁾
部分断裂は深層か、浅層か、層間かというところに注目します。

関節面断裂(深層断裂)はAST、Articular side tearともいい、関節面の部分断裂を意味します。
滑液包面断裂(浅層断裂)はBST、Bursal side tearともいい、滑液包面の断裂を意味します。
両者の断裂機序については諸説ありますが、一定の見解は得られていません。
ここは持論になりますが、ASTの方は関節運動を行うと関節内の何とも言えない痛み。
BSTの場合は肩峰下滑液包の影響か、関節運動に伴い肩外側部痛を訴える症例が非常に多いです。
いくつか文献を読みましたが、この感覚が私の中で一番しっくりくる病状です。
そして最後にDelamination、層間剥離は文字通り深層と浅層の間が剥離してしまう病態です。
こちら発生機序は不明ですが、腱板の一次修復術後の再断裂リスクになる、ということが言われています。
全層断裂の分類 -Cofield分類-
続いて全層断裂の分類です。
斜位前額断で全層断裂を判断したら斜位矢状面にうつります。
全層断裂はSmall、Medium、Large、Massiveの4段階に分けられ、それぞれ1㎝以下、1-3㎝、3-5㎝、5㎝以上と断裂のサイズで判断します。

ちなみにこの分類を提唱したCofieldの報告によると360肩の平均断裂サイズは16.3㎜であり、中断裂が最も多いと報告しています⁴⁾。
ではこのように切れてしまった断裂は通常の肉離れの様に自然と治るのでしょうか?
腱板は一度切れても治るのか?拡大するのか?
ここでは諸家の報告をまとめさせていただきます。
・症候性断裂59肩→平均24ヶ月52%でサイズ拡大⁶⁾
・症候性は無症候性に比べ有意に断裂サイズが大きい
断裂の大きさが疼痛進行の重要な因子?⁷⁾
・症候性になった(34肩)は無症候性のまま(35肩)に比べてもともとのサイズが大きい、経過で拡大⁸⁾、
これらの報告のように
一度腱板が断裂するとその断裂サイズは少しずつ拡大するとされています。
そしてそのサイズは症候性の場合はおよそ1年で2mm。(29か月で5㎜はイメージしにくいですよね…)
漫画などでも【吊り橋の縄がプチプチと切れるとその牽引力により徐々に切れて最後は完全にちぎれてしまう。】しまうという描写が多いのと同じと考えています。
筋肉は起始と停止が近づく、という一方向性の運動でしかないのでこのような報告も頷ける結果と考えています。
ここまで断裂サイズについて解説してきました。
ここからはもう少し臨床的な話をしていきたいと思います。
”腱板断裂”といっても回旋腱板筋は4つあります。
そしてその断裂のパターン(どの筋とどの筋が断裂しているか)によっても病態・機能が異なります。
そこで今回は普段から重宝している論文がありますので紹介させていただきます。
肩前方挙上機能低下の断裂パターン
こちらはTypeAからTypeEの5パターンに分けてその自動可動域がどの程度かをみています。
ちなみにCollinらの”腱板断裂と定義された対象者は脂肪浸潤がGoutallierStage3以上のものを指します。

結果はTypeA(棘上筋、肩甲下筋上部断裂)とTyoeD(棘上筋、棘下筋断裂)のみであれば前方挙上はほとんど問題なし。
TypeB(棘上筋、肩甲下筋断裂)、TypeC(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋上部断裂)の場合は自動挙上が120°以下という結果でした。
ちなみに66種類のADL動作を含む36の研究をまとめたシステマティックレビューでは、肩関節の屈曲及び外転は約130°必要とされています¹⁰⁾。

このような結果からもTypeB(棘上筋、肩甲下筋断裂)やTypeC(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋上部断裂)と分かった時点で機能面の改善だけに捉われずADL訓練にも重点を置く必要があると考えます。
では断裂の程度や脂肪浸潤はどのように判断するのでしょうか?
基本的にはMRIで評価した後、主治医が判断します。
ですので理学療法士の私はある程度、自分自身でも評価できるようにしつつ、最終的には医師に確認と指示を仰ぎます。
しかし、画像だけでは机上の空論(画像上の空論?)に過ぎないケースも多々あり、実際の臨床で患者様の機能評価をしたうえで判断することがほとんどです。
したがって、本記事では4つの回旋腱板筋に対する整形外科テストを紹介して締めたいと思います。
回旋腱板筋断裂に対する整形外科テスト
棘上筋 -Drop arm sign-¹¹⁾
※動画は後日挿入予定
◆精度
感度:24% (13-34) 特異度93% (85-100)
棘上筋断裂の検査で有名なDrop arm signはみなさんもご存じかと思います。
Drop arm signは感度こそ低いですが、特異度が93%と高いため、テストが陽性の場合は棘上筋が断裂している可能性が高いことがわかるため、確定診断として有効なテストの一つです。
方法は肩関節を他動で90°外転位にし保持ができなければ陽性となります。また、脱力により90°からゆっくりと腕を降ろすことができなくても陽性となります。
余談ですが、非常に重要なことで、私自身も普段から注意している病態が一つあります。
それはキーガン(Keegan)型麻痺(頸椎症性神経根症)です。
キーガン型麻痺とは、変形性頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアによって、頚髄神経枝のC5運動神経である前枝部分のみが圧迫され運動麻痺を起こすものです¹²⁾。
脊髄神経は基本的に前枝が運動神経、後枝が感覚神経のため痺れや疼痛はほとんどないにもかかわらず肩の挙上動作ができなくなります。
C5の主たる筋肉には三角筋、上腕二頭筋、腕橈骨筋がありますので肩の挙上のみならず肘の屈曲筋力も低下します。これはキーガン型麻痺の特徴的な病態です。
腱板断裂であれば肘の屈曲筋力は影響しないですよね。
つまりDrop arm signが陽性だったとしても肩だけでなく頸部や肘関節も見る必要がある、ということです。
棘下筋 -External rotation lag sign-¹¹⁾
◆精度
感度:47% (21-71) 特異度94% (85-100)
External rotation lag signは棘下筋を主とした下垂位外旋位保持能力を評価するテストです。
方法は肩関節20°外転位、肘関節90°屈曲位の状態で他動的に最大外旋位にし、保持が可能かを調べます。
棘下筋断裂(+)、小円筋断裂(-)であれば下垂位20°前後までの外旋位保持は可能ですが、最大可動域(50-60°)は困難となります。
また、棘下筋断裂(+)、小円筋断裂(+)の場合はぼぼ下垂位外旋運動が困難となります。
これらは棘下筋、小円筋断裂に見ならず棘上筋や肩甲下筋の断裂も複合的に生じている報告にはなりますが、”外旋筋”に焦点を当てるとこのような結果となります。
小円筋 -Horn blowers sign-¹¹⁾¹³⁾
◆精度
感度:100% 特異度93%
Hornblowers signは小円筋を主とした挙上位外旋位保持能力を評価するテストです。
方法は肩関節を肩甲骨面上90°挙上位にし、肘を約100°に屈曲し、その状態から検者が内旋方向に抵抗し、被験者はそれに抵抗します。
このときの運動が小円筋の機能評価となります。
小円筋の機能が低下している場合は肩関節を保持(内旋に抵抗)できず、抵抗に負けるか、肩を挙上し代償します。
この動作がHornblowers sign(角笛を吹く徴候)にみえることからこのようなテスト名になったそうです(ボス談)。
肩甲下筋 -Internal rotation lag sign-¹¹⁾
◆精度
感度:97% (88-100) 特異度83% (70-96)
最後は肩甲下筋による内旋保持能力をみるInternal rotation lag signです。
Internal rotation lag signは肩関節伸展内旋位、肘関節屈曲90°位の状態で検者が被検者の手を把持し最大内旋位まで誘導します。
その後、最大内旋位で保持することができなければテストは陽性となります。
他の肩甲下筋の機能検査にはBerry press test、Bear hug test、Lift off test、Supine Napoleon testなどがあります。
しかし最近はDrop arm sign、External rotation lag sign、Hornblowers signの流れでInternal rotation lag signを行うのが私のroutineとなっている(簡単だから)ため、今回はInternal rotation lag signを紹介させていただきました。
またの機会があればそのほかのテストも紹介していきたいと思います。
おわりに
お疲れさまでした。
今回は腱板断裂の中でも超入門の内容をまとめさせていただきました。
本記事を読んで少しでも明日の臨床に活かしてくだされば嬉しいです。
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まとめ
・腱板断裂は部分断裂と全層断裂に大別される
・部分断裂には関節包面断裂、滑液包面断裂、層間剝離などがある
・全層断裂は断裂サイズで小・中・大・広範囲断裂に分けることができる
・腱板は1年間に約2mm拡大する
・前方挙上運動は棘上筋-棘下筋もしくは棘上筋-棘下筋-肩甲下筋のGoutallierStage3以上の脂肪浸潤を伴う断裂例においては120°以上困難なケースが多い
・ADLを遂行する上で130°以上の屈曲および外転が必要
・棘上筋に限らず、整形外科テストを行う上では単一ではなく複数のテストを組み合わせながら多角的評価が必要
参考文献
1)皆川 洋至,他.腱板断裂肩の疫学.日本整形外科学会雑誌,2006;80巻3号217.
2)山本 敦史.腱板断裂の疫学-症候性断裂と無症候性断裂-.MB Orthop,2011;24巻第3号:1-5.
3)Ellman H. Diagnosis and treatment of incomplete rotator cuff tears. Clin Orthop Relat Res. 1990 May;(254):64-74.
4)Cofield RH. Subscapular muscle transposition for repair of chronic rotator cuff tears. Surg Gynecol Obstet. 1982 May;154(5):667-72.
5)Safran O, Schroeder J, Bloom R, Weil Y, Milgrom C. Natural history of nonoperatively treated symptomatic rotator cuff tears in patients 60 years old or younger. Am J Sports Med. 2011 Apr;39(4):710-4.
6)Maman E, Harris C, White L, Tomlinson G, Shashank M, Boynton E. Outcome of nonoperative treatment of symptomatic rotator cuff tears monitored by magnetic resonance imaging. J Bone Joint Surg Am. 2009 Aug;91(8):1898-906.
7)Yamaguchi K, Ditsios K, Middleton WD, Hildebolt CF, Galatz LM, Teefey SA. The demographic and morphological features of rotator cuff disease. A comparison of asymptomatic and symptomatic shoulders. J Bone Joint Surg Am. 2006 Aug;88(8):1699-704.
8)Mall NA, Kim HM, Keener JD, Steger-May K, Teefey SA, Middleton WD, Stobbs G, Yamaguchi K. Symptomatic progression of asymptomatic rotator cuff tears: a prospective study of clinical and sonographic variables. J Bone Joint Surg Am. 2010 Nov 17;92(16):2623-33.
9)Collin P, et al. Relationship between massive chronic rotator cuff tear pattern and loss of active shoulder range of motion. J Shoulder Elbow Surg. 2014 Aug;23(8):1195-202.
10)Oosterwijk AM, et al. Shoulder and elbow range of motion for the performance of activities of daily living: A systematic review. PTP. 2018;34(7):505-28.
11)Hermans J,et al. Does this patient with shoulder pain have rotator cuff disease?: The Rational Clinical Examination systematic review. JAMA. 2013 Aug 28;310(8):837-47.
12)安藤 哲朗 , 亀山 隆 . Keegan型頸椎症. 脊椎脊髄ジャーナル ,2015;28(4):pp.414-416
13)Walch G, Boulahia A, rt al. The 'dropping' and 'hornblower's' signs in evaluation of rotator-cuff tears. J Bone Joint Surg Br. 1998 Jul;80(4):624-8.