筋皮神経障害の評価と介入

 

こんにちは肩研サロンメンバーの桑原です。

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今回始めて肩関節機能研究会の記事を担当させていただく事になりました。

拙い文章ですがよろしくお願いいたします。

目次

  • 序)臨床での疑問
  • 1)烏口腕筋(解剖学)
  • 2)筋皮神経(解剖学)
  • 3)外側前腕皮神経(解剖学)
  • 4)筋皮神経障害の病態
  • 5)鑑別疾患
  • 6)筋皮神経障害の評価
  • 7)筋皮神経障害の介入
  • 8)まとめ

序)臨床での疑問

現在整形外科クリニックに勤務して4年目になります。

肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)や腱板断裂 (保存・術後)の症例を担当する機会をいただく中で肩関節疾患で何故か肘関節から前腕外側あたりの鈍痛や脱力感を訴える症例を多く経験します。

今回はこの肘関節から前腕外側あたりの鈍痛や脱力感に対して評価と介入・文献の情報も混じえてまとめていきたいと思います。

臨床での1つの参考になればなによりです。

「肘関節から前腕外側あたりの鈍痛や脱力感」

 

この所見を得た時に評価前に何を思い浮かべるかが大切かと思います。

肘関節から前腕外側あたり症状がある場合

外側上顆炎

筋皮神経障害

C6神経根障害

このあたりを思い浮かべます。

なぜこの話をするかというと

肩関節疾患のリハビリ開始時に肘関節〜前腕外側に鈍痛があり筋皮神経障害の様な症状を併発している症例が少なくないからです。

そしてそれが本当に筋皮神経障害なのか、症状出現部位の似ているC6神経根障害外側上顆炎ではないか、曖昧にせずしっかり情報を聴取し介入するか否かを評価し対応することも信頼関係構築において大切かと考えています。

 

それでは先ず要点をまとめましたので全体像を確認してから各項で進めていきましょう。

point
①肘関節外側〜前腕外側にかけて鈍痛や脱力感がある際は筋皮神経障害を疑う。
②筋皮神経は一般的には烏口腕筋内を通過する為、絞扼部位として臨床上重要である。
③筋皮神経を支配する筋は烏口腕筋・上腕筋・上腕二頭筋なのでこれらの筋に筋力低下が無いか評価する。
④鑑別疾患は外側上顆炎、C6神経根障害である。

 

筋皮神経は烏口腕筋を貫通する為、先ずは烏口腕筋の解剖学から復習していきましょう。

それではスタートです💨

 

1)烏口腕筋(解剖学)

烏口腕筋はマイナーな筋ですが筋皮神経障害においては密接な関係を持つ筋です。

まずは基礎から復習していきましょう。

Ilayperumaの報告によると烏口腕筋は烏口突起の頂点から上腕二頭筋の短頭とともに起始し,上腕三頭筋と上腕筋の付着部の間の上腕骨内側面に停止すると言われています1)

烏口腕筋の近位は上腕二頭筋短頭腱と癒合しており、共同腱(conjoint tendon)として烏口突起に付着すると言われています2)

烏口腕筋の走行は筋皮神経を貫通しているので絞扼部位として臨床上重要になります。

 

2)筋皮神経(解剖学)

筋皮神経は腕神経叢より起こり外側神経束を構成した後、筋皮神経として分枝し、上腕の内側前方を走行します。

そしてFlatowの研究では烏口腕筋の起始部から平均5.6cmのところで烏口腕筋を貫くと報告されています3)

貫通後は上腕二頭筋と上腕筋に枝を出しながら下降します。

そして上腕二頭筋外側から出て外側前腕皮神経となり肘外側から前腕外側の感覚を支配します。

また、文献を見ていると筋皮神経の走行はかなり個体差がある印象を受けます。

Ilayperumaらの研究では312肩中83.33%は烏口腕筋を貫通すると報告しています1)

Guerriの研究では54肩中6例は貫かずに走行していたと報告されています4)

矢島らは研究では上腕二頭筋を貫くtypeや2本の筋皮神経が烏口腕筋を貫くtypeもあると報告しています5)

走行形態はかなり多様です。

 

 

これらの文献から読み取る事は絞扼部位は上腕二頭筋にも存在するという想定のもと評価をすることが大切という事です。

圧痛所見は烏口腕筋のみに出るわけではなく、介入も視野を広げなくてはいけません。

また、筋皮神経障害が進むと筋力低下が生じますが、烏口腕筋内の圧迫された神経は、すでに烏口腕筋への運動枝を失っているため、烏口腕筋の機能障害を呈することはない6)この点に注意する必要があります。

 

筋皮神経のまとめ
・筋皮神経の支配筋は烏口腕筋・上腕筋・上腕二頭筋である。
・筋皮神経は烏口腕筋の起始部から平均5.6cmのところを貫く為、絞扼部として臨床上重要であると言われている。
・筋皮神経は烏口腕筋貫通部の前に烏口腕筋への運動枝を失っている為厳密には烏口腕筋の筋力低下は起こらない。
・筋皮神経の走行は多様で、烏口腕筋を貫かないケースや上腕二頭筋も貫くケースがある。
・圧痛所見は烏口腕筋のみならず上腕二頭筋も評価する事も大切である。

 

3)外側前腕皮神経(解剖学)

僕はこの神経の解剖が苦手で、勉強する際も避けがちですが介入する上で避けては通れないので復習しましょう。

外側前腕皮神経は筋皮神経の感覚枝であり肘関節から数センチ上のところで、上腕二頭筋腱のすぐ外側にある上腕二頭筋と上腕筋の間から出ます。

Desaiの研究によると上腕二頭筋と上腕筋の間から出た時点で外側前腕皮神経とみなされると言われています6)

筋皮神経の感覚枝である外側前腕皮神経は先述の通り肘関節外側から前腕外側の知覚領域を支配しています。

C6皮膚分節(デルマトーム)の範囲と被るので鑑別が大切になります。

それぞれの支配領域を確認していきましょう。

 

これら支配領域の違いは手関節まで及ぶか否かです。

もし手関節領域まで知覚異常があり各種test(Spurling・Jackson Testなど)が陽性の場合は神経根障害の可能性があるのでドクターとの相談の必要性も出てきます。

 

外側前腕皮神経のまとめ
・筋皮神経の感覚枝である。
・支配領域は肘関節外側〜前腕外側。
・C6の脊髄文節は感覚支配領域と重複するので症状の範囲を正確に聴取し、症状が手関節領域にまで及びSpurling・Jackson Testなどの各種testが陽性の場合は神経根障害を疑う。

 

 

4)筋皮神経障害の病態

これらを踏まえて病態の確認です。

筋皮神経障害は烏口腕筋貫通部で起こる絞扼性神経障害です。

先述の通り支配筋(上腕二頭筋・上腕筋)や感覚枝の外側前腕皮神経(LABCN)領域の症状が主な病態です。

絞扼性末梢神経障害とは、末梢神経の交通路(末梢神経が支配する領域に到達する前までの筋肉、靭帯、筋膜、骨などの組織に囲まれた通路)において神経が絞扼されて生じる病態です。

絞扼性神経障害の症状
・痛み
・しびれ感
・感覚過敏
・感覚鈍麻
・脱力感
・筋緊張
・筋力低下
・筋萎縮
・麻痺

 

烏口腕筋の作用は上腕の前方挙上・内転・内旋なのでこれらの動作を反復する職業の方や競技者に多い印象です。

動作では結帯動作・ものを片腕で担ぐ動作・投球動作などで烏口腕筋にストレスがかかるのでこれらの動作を主訴として来院する方も少なくありません。

またパソコンを使う時の姿勢で円背になると肩甲骨外転、下方回旋、前傾位となり烏口腕筋が短縮位となります。

上肢を固定し三角巾で吊る状態も烏口腕筋が短縮位になるので筋短縮・筋攣縮の要因として考えられます。

筋皮神経障害の病態まとめ
・筋皮神経障害は烏口腕筋貫通部での絞扼性神経障害である。
・烏口腕筋の作用は上腕の前方挙上・内転・内旋なのでこれらの反復動作は発生要因となる。
・結帯動作、投球動作、物を片腕で担ぐ動作は烏口腕筋が収縮し症状が出る可能性がある。

 

5)鑑別疾患

筋皮神経障害と間違われやすいのは外側上顆炎・C6神経根症状です。

僕の経験では外側上顆炎の患者さんの痛みは限局的ではっきりしている事が多く、筋皮神経障害由来だとこの範囲がぼんやりとしていてはっきりしない印象です。

以下の画像は患者さんの認識している疼痛範囲の表現の違いです。

局所的な表現(one point indication)の場合、示した組織に障害がある可能性が高く外側上顆炎はこちらが多い印象です。

広範囲な表現(palmar indication)の場合、示した組織に障害がある可能性が低く筋皮神経障害や神経根障害はこちらが多い印象です。

※文献は少なく経験的なものでもあるので参考程度に。

 

鑑別の全体像を簡易的なフローチャートでまとめてみました。

筋皮神経障害に対する感度・特異度ともに高い方法は確立されていません(筋電図検査・神経伝導速度検査を除く。)ですので検査前確立が低い疾患を感度の高い検査で鑑別し陰性所見をとる事がrule-outに向けて大切になります。

つまり、外側上顆炎やC6神経根障害の検査前確立が低い時(外側上顆に圧痛がない・知覚異常が手関節まで及ばない等)感度の高い検査を用いて除外して判断(rull-out)する事でより精度の高い鑑別となります。

これをSensitivity-Negative rule out(SnNout)と呼びます7)

反対に検査前確立が高い時(上肢の使用頻度の高い職業・競技者・青年層・烏口腕筋の圧痛及び圧痛に伴う支配領域の症状増悪)この場合は特異度の高い検査を用いて鑑別し陽性所見を得ることによってrule-inすることが望ましく、これをSpecificity-Positive rule in(SpPin)と呼びます7)

しかし筋皮神経障害でこのような整形外科的テストは確立されていないので、筋皮神経障害の検査前確立が高いとしても他疾患の鑑別が大切になります。

筋皮神経障害の鑑別まとめ
・鑑別疾患は外側上顆炎・C6神経根障害である。
・外側上顆炎の痛みは局所的で筋皮神経障害やC6神経根障害は広範囲な場合が多い。
・筋皮神経障害において感度・特異度ともに高い整形外科的テストは確立されていない為、可能性の低い疾患を感度の高い検査でrule-outする事で鑑別の精度を高める事が大切である。

 

6)筋皮神経障害の評価

続いて評価についてです。

まず筋皮神経障害の所見の再確認です。

筋皮神経障害の所見
・肘関節外側〜前腕外側の鈍痛・脱力感(外側前腕皮神経の支配領域)
・烏口腕筋の圧痛及び圧痛に伴う支配領域の症状出現
・肩関節過伸展・肘関節・前腕回内で筋皮神経に牽引刺激を加えた際の疼痛の再現
・上腕筋・上腕二頭筋の筋力低下
・その他絞扼性神経障害で起こる症状

筋皮神経はその走行上、肩関節過伸展位で伸長されます。

そして走行上の解釈ですが、肘関節伸展・前腕回内でより遠位へ牽引されます。

なのでこの複合動作で出現する支配領域の症状の有無も参考になりそうです。

筋力評価ですが、筋皮神経の支配筋は烏口腕筋・上腕筋・上腕二頭筋です。烏口腕筋は先述の通り筋力低下は起こらないので除外して進めます。

上腕筋の評価

上腕筋の評価は肘関節屈曲で行いますが、前腕の肢位で作用する筋が変化する事に注意が必要です。

前腕回外位だと上腕二頭筋、中間位だと腕橈骨筋が働きやすい為、回内位での肘関節屈曲で評価します。

上腕二頭筋の評価

上腕二頭筋の作用は肩関節屈曲・肘関節屈曲・前腕回外です。

肘関節深屈曲位での前腕回外動作は上腕二頭筋の弛緩肢位になるので、回外筋が作用しやすくなり筋皮神経障害がある場合でも左右差は見られない可能性が高いです。

反対に肘関節浅屈曲位での前腕回外動作は回外筋に加えて上腕二頭筋の作用が作用しやすいので左右差が顕著に現れるかと思います。

筋皮神経障害の評価まとめ
・筋皮神経への牽引刺激によって疼痛再現の有無の評価は肩関節伸展位で肘関節伸展+前腕回内で行う。
・上腕筋の筋力評価→前腕回内位+肘関節屈曲
・筋皮神経障害では浅屈曲位回外(上腕二頭筋)で左右左が見られ、深屈曲位(回外筋)では左右差は見られない。
※筋皮神経の牽引操作は走行上の解釈であり精度を担保する文献はありません。

 

7)筋皮神経障害の介入

筋皮神経障害の介入は烏口腕筋と上腕二頭筋のリラクセーションと筋皮神経の滑走訓練を中心に行います。

基本的にⅠb抑制、Ⅰα抑制、反回抑制を用いて行ないます。

烏口腕筋腱を触知し軽く圧をかけます(Ⅰb抑制)そして水平内転位へ等尺性収縮(これもⅠb抑制)を行います。

筋への圧迫刺激は伸長刺激にもなるのでⅠb抑制が働きます。そして等尺性収縮時は腱への伸長刺激が働く為Ⅰb抑制が起こります。

収縮後は弛緩でも良いですが水平外転方向への収縮も入れるとⅠα抑制で烏口腕筋は弛緩します。

これを一連の流れで繰り返します。

反回抑制(レンショウ抑制)は最大短縮位で最大求心性収縮をさせることによって筋弛緩が得られる反射です。

先程と同様に収縮後は弛緩か水平外転方向への収縮(Ⅰα抑制)により烏口腕筋は弛緩します。

 

筋皮神経の滑走訓練は疼痛の再現動作と似ています(当然疼痛の無い範囲で行います)

筋皮神経は走行上肩関節の前面を走行するので肩関節伸展+肘関節伸展で伸長されます。

そして前腕を回内させることによって外側前腕皮神経(LABCN)が遠位方向へ牽引されます。

烏口腕筋のリラクセーション後に、筋皮神経の遠位方向への牽引刺激と弛緩を繰り返すことによって絞扼部での滑走性を改善させるのが狙いです。

補足ですが、これら操作は神経の走行上から解釈したものであり、有効性を示す文献やエコーで動態評価をしたわけでは無いので参考程度にお願い致します。

筋皮神経障害の介入まとめ
・筋皮神経障害に対する介入は烏口腕筋のリラクセーションと筋皮神経の滑走訓練を中心に進める。
・烏口腕筋に対する介入はⅠb抑制、Ⅰα抑制、反回抑制等を用いて行う。
・筋皮神経の滑走訓練は肩関節伸展位+肘関節伸展+前腕回内で遠位へ牽引し肘関節屈曲+前腕回外で弛緩させる。

8)まとめ

この記事のまとめです。
この記事のまとめ
・筋皮神経は一般的には烏口腕筋内を通過する為、絞扼部位として臨床上重要である。
・筋皮神経を支配する筋は烏口腕筋・上腕筋・上腕二頭筋である。
・筋皮神経は烏口腕筋貫通部の前に運動枝を失っている為厳密には烏口腕筋の筋力低下は起こらない可能性が高い。
・筋皮神経の感覚枝は外側前腕皮神経(LABCN)である。
・外側前腕皮神経(LABCN)の支配領域は肘関節外側〜前腕外側である。
・C6の脊髄文節は外側前腕皮神経(LABCN)の感覚支配領域と重複する。
・筋皮神経障害の主な鑑別疾患は外側上顆炎、C6神経根障害である。
・筋皮神経障害の評価は圧痛所見や筋皮神経への牽引刺激による疼痛再現の有無、筋力評価を中心に行う。
・筋皮神経障害の介入は烏口腕筋のリラクセーションと筋皮神経の滑走訓練を中心に行う。

今回、筋皮神経障害について文献をまとめる中で新しい発見が多くありました。

筋皮神経のみならず神経の走行は多様であり症状も一様ではありません。

また、類似した疾患もあり難しそうに見えますが病態や鑑別を理解しておけば丁寧に対応出来ます。

改めて神経の支配筋、感覚枝の支配領域の理解や脊髄の文節との照らし合わせが大切だと感じました。

文献は間接引用が多い為、詳細が知りたい方は参考文献から原著を追っていただければと思います。

この記事の中には一部経験に基づくものや文献が少なく解剖学的走行から解釈の上、記したものもあります。

治療効果が十分に検証されていないものもあるので参考程度にお願いいたします。

この記事が皆さんの臨床での何かのヒントになれば幸いです。 

桑原啓太

参考文献

1)Ilayperuma I, Nanayakkara BG, Hasan R, Uluwitiya SM, Palahepitiya KN. Coracobrachialis muscle: morphology, morphometry and gender differences. Surg Radiol Anat. 2016 Apr;38(3):335-40. doi: 10.1007/s00276-015-1564-y. Epub 2015 Oct 13. PMID: 26464302.

2)林 典雄.運動療法のための機能解剖学的触診技術 上肢.2005.198.

3)Flatow EL, Bigliani LU, April EW. An anatomic study of the musculocutaneous nerve and its relationship to the coracoid process. Clin Orthop Relat Res. 1989 Jul;(244):166-71. PMID: 2743658.

4)Guerri-Guttenberg RA, Ingolotti M. Classifying musculocutaneous nerve variations. Clin Anat. 2009 Sep;22(6):671-83. doi: 10.1002/ca.20828. PMID: 19637305.

5)矢島 麗ら.筋皮神経の走行形態が上腕二頭筋と上腕筋の形態形成に及ぼす影響.歯科学報.2017;117.264.

6)Desai SS, Varacallo M. Anatomy, Shoulder and Upper Limb, Musculocutaneous Nerve. 2021 Jul 19. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2021 Jan–. PMID: 30480938.

7)Pewsner D, Battaglia M, Minder C, Marx A, Bucher HC, Egger M. Ruling a diagnosis in or out with "SpPIn" and "SnNOut": a note of caution. BMJ. 2004 Jul 24;329(7459):209-13. doi: 10.1136/bmj.329.7459.209. PMID: 15271832; PMCID: PMC487735.

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