みなさんこんにちは、肩関節機能研究会 研究生の佐藤雅文です😄
(Twitter⇨@masagaze、Instagram⇨@masafumi_s_

 

今月の無料記事では肩関節周囲炎について、“不活動による弊害”を踏まえて考えていきたいと思います。

 

まず記事を読んでいただくにあたり知っておきたいこととして、
肩関節周囲炎の一般的な病期としては
①炎症期(痛みが強い) ②拘縮期(硬い) ③回復期(痛み・硬さともに改善してくる)
があるということです。

※◯◯期という表現は異なる場合があります。

 

 

その他、肩関節周囲炎の定義や歴史などの基本的な内容については、代表の志水先生(@echohuku)がわかりやすくまとめてある記事があるので、まずはそちらをご覧ください。

無料記事:肩関節周囲炎の定義と歴史

 

こんな方にオススメの記事です
・炎症期で愛護的に介入することはわかるが、その後どうすればいいかわからない
不活動がどのような弊害を起こしうるのかわからない
・具体的な”痛みの恐怖ー回避モデル(fear-avoidance model)”をイメージしにくい

はじめに

 さきほど述べた様な肩関節周囲炎の病態や病期を理解することで、

・炎症期が疑われる初期は、愛護的(痛みを誘発しすぎない)に介入しよう
・炎症期様の症状が落ち着くにしたがって、少しずつ積極的な可動域練習を行っていこう
といった考えを持たれる方は多いと思います。
ただ、私が臨床で肩関節周囲炎の患者様を担当し始めた際はこういった考えを持っていたことがありました。

佐藤
①もし疼痛が再燃したらどうしよう。過保護かもしれないけど、まだ患者さんには積極的に動かさない様に注意しておこう。
②強く動かさないでいれば、少なくとも悪化させてしまうことはないだろう。
今となっては良くない考え方をしてしまったと反省しており、
安静時痛や愛護的な介入中・もしくは介入直後に疼痛の再燃がないのであれば、
再燃しない程度に積極的に動いてもらうことの重要性を患者さんと共有しておくことが大事だと考えています。

痛みの恐怖ー回避モデル(fear-avoidance model)

不活動による弊害について考える際に、知っておきたい重要な心理学的モデルについてご紹介します。

 

簡潔にご説明させていただくと、
組織損傷などの痛み体験に対し、破局的思考や再発や増悪への不安が、痛みを生じうる身体活動を制限してさまざまな行動を避けるようになり、二次的な問題(活動性の低下・抑うつ・能力障害)などに陥り、身体機能障害も拡大し、慢性痛の悪循環をひき起こす
参考:Vlaeyen JW, et al : Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain : a state of the art : pain 85(3),317-332,2000.
といった考え方になります。
抑うつや不安・恐怖なども含め慢性痛がどのように維持・悪化していくのかを表現するモデルとなっていますが、
上のスライドで見てみると、赤部分の”損傷”から青で表記されている左側へのループがそれにあたります。

肩関節疾患の患者さんではどうなのか?

このモデルは慢性腰痛などでよく報告されている印象でしたが、
慢性肩関節痛でも、
感情的苦痛、抑うつ症状、不安、恐怖回避、破局的思考は
痛みの強さ・および障害の永続化に関与していた。

Javier MC, et al : The role of psychological factors in the perpetuation of pain intensity and disability in people with chronic shoulder pain: a systematic review. BMJ Open,8(4):2018.

 

とも報告されています。

 

報告により対象や条件が異なるため、エビデンスの質はそれほど高くないと言われていましたが、

心理的要因と、慢性的な肩関節痛の強さと障害の永続化に関しては”少なからず関係性があるのではないか?”といった視点を持つことは大事だと思っています。

抽象的でイメージが湧かないぞ…
と思った方もいらっっしゃると思うので、肩関節周囲炎の患者様を例に挙げて考えてみましょう☺️

肩関節周囲炎患者さんを例に、具体的に考えてみると…

 

一般的な肩関節周囲炎はある程度の期間痛み刺激を経験される方が多く、
特に疼痛が強い時期では“寝ようとすると強烈な痛みがあり睡眠不足になる”、“家事や日常生活で上肢を用いようとした瞬間に痛くなり、うずくまってしまった”(①痛み体験などの経験をされる方は多くいらっしゃるかと思います。

 

 

その後“着替えや洗濯、洗い物をしようとすると、またうずくまるような強い痛みがでるかもしれない”(②破局的思考の反芻といった考えが繰り返し頭に残り、

 

痛みに対する不安・恐怖(③痛み関連不安から、患側上肢を使わないように動かさないでいる(④過剰回避行動といった恐怖への回避行動を取り、

 

結果として患側上肢の使用頻度の減少(⑤不活動)や、ADLや生活動作制限を引き起こし、それが更なる疼痛惹起につながる などが起こり得ると考えることもできるかと思います。

 

 

 

 

不活動による疼痛閾値への関与

これまでの話で、不活動が悪循環の一部を担う可能性があることがなんとなく理解できたかと思います。

その他に、不活動そのものが疼痛閾値を低下させることも報告されています。

 

 

 

この報告では、健常者の左前腕〜手関節をギプスで4週間固定した際、
それぞれ0、3、28日後、可動域測定をした際に運動時痛の訴えが見られたということと、
それぞれ全てのタイミングに疼痛閾値の低下が認められた、と報告されていました。

 

Terkelsen AJ, et al : Experimental forearm immobilization in humans induces cold and mechanical hyperalgesia. Anesthesiology 109 : 297-307,2008.

 

末梢性感作や脊髄後角細胞の可塑的変化を惹起する可能性がある

 

また、他にもOkamotoらによって“不活動は炎症と同様に、一次求心性ニューロンに感作が生じる可能性がある”といった報告や、
Ushidaらによって、“不活動が脊髄後角細胞の可塑的変化を惹起する”と言った報告もされており、

 

不活動によって、末梢から非侵害的な刺激が入力されただけでも、痛みとして知覚される可能性がある。といったことが考えられます。

 

Okamoto T, et al : sensory afferent properties of immobilised or inflamed rat knees during continuous passive movement. J Bone Surg Br 81 : 171-177,1999.

Ushida T, et al : Changes in dorsal horn neuronal responses in an experimental wrist contracture model. J Orthop sci 6 : 46-52,2001.

 

まとめ

破局的思考や不安、恐怖に関連した恐怖回避行動によって、不活動につながる可能性がある。

 

・不活動により疼痛閾値の低下が起こる可能性がある

 

・不活動により一次求心性ニューロンに感作が起こる可能性がある

 

・不活動により脊髄後角細胞に可塑的変化を惹起する可能性がある

 

結論としては、

安静が求められる場合を除くと(拘縮期〜回復期)、

「過剰な安静は、痛みの悪循環に陥る可能性がある」といった認識を持つことが重要で、

患者さんとこれらの考えを共有しながら、日常生活から不活動を予防する必要があると考えています。

 

 

いかがだったでしょうか^^;

言葉足らずな部分もあったかと思いますが、
もし気になることなどがありましたらぜひTwitterInstagramのDMからでも構いませんので
是非質問やご意見お待ちしています☺️

 

今後も皆さんに有益な情報がお届けできるよう尽力いたします!

 

最後まで読んでいただき有難う御座いました( ´ ▽ ` )

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