自己紹介
こんにちは。肩研サロンメンバーの理学療法士の福原 喬志(フクハラ タカシ)です。
普段は東京都内の整形外科クリニックで勤務しています。エコーを使用し、日々臨床に従事しています。
はじめに
胸郭出口症候群(Thoracic Outlet Syndrome:以下TOS)の病態編・評価編・治療編の3つの記事にして紹介したいと思います。''症候群(Syndrome)''と呼ばれているようにさまざまの症状が見られ、時には頚部疾患との見極めが難しい疾患だと思います。さて、今回は病態編です。
・TOSはどのように分類され、どのような種類があるのか
・TOSの病態と原因は?
・TOSになりやすいスポーツと職業 〜理学療法士もTOSになりやすい!?〜
TOSとは
TOSは、腕神経叢および/または鎖骨下血管の胸部出口の圧迫によって症状が引き起こされる疾患として知られています。
TOSという言葉が使用され前までは血管神経束における圧迫の病因に応じて、頚肋症候群1)2)、斜角筋症候群3)4)、肋鎖症候群5)、過外転症候群6)と呼ばれていました。
その後、Peetら7)はそれを包括する概念としてTOSと報告し、第1肋骨、鎖骨、斜角筋で形成される胸郭出口およびその近傍における腕神経叢・鎖骨下動静脈の圧迫や伸張によって生じた上肢の痛みやしびれを有する疾患群と報告しました。
TOSの分類
TOSの臨床症状による分類は、神経性,血管性に分けられます。
神経性はture TOS(真のTOS),disputed TOS(議論のあるTOS)に分けられます。ture TOSとは母指球筋を中心とした筋萎縮と電気生理学的異常を認めるものとして1970年にGilliatら8)が報告し、それ以外をdisputed TOSとしました。さらに、disputed TOSは腕神経叢の圧迫型・牽引型・混合型に分けられます。
血管性は動脈性TOS,静脈性TOSに分類されます。TOSの全体の5%程度となります。
TOSの病態
血管神経束の圧迫・狭窄部位として斜角筋部、肋鎖間隙、小胸筋間隙の3つあります。狭小化する肢位と共に紹介したいと思います。
斜角筋三角は、頚部の側屈時や深呼吸時に狭小化します。
肋鎖間隙は、上肢の挙上に伴う鎖骨の後退により狭小化します。
小胸筋間隙は肩関節を伸展・外転させると狭小化します。
腕神経義造影検査にて,神経血管束の圧迫あるいは牽引を認めた部分は斜角筋部 30%、肋鎖間隙75%、小胸筋下間隙6%と報告されています。9)最も圧迫・牽引を受けやすい部位は、腕神経の下神経幹(C8-Th1)であることが報告されている10)。
また、Dynamic CT angiography を用いた報告では、TOS 患者の血管狭窄部位は斜角筋部37%、肋鎖間隙63%,小胸筋下間隙3%とされています。11)これより斜角筋三角部や肋鎖問隙にて障害を受ける可能性が高いと考えられます。最も動脈の圧迫が起こりやすい部位は鎖骨間隙であり、斜角筋部は2番目に狭小されやすいです12)。
TOSの原因
軟部組織性要因(70%)
軟部組織性要因は斜角筋破格、斜角筋肥大、異常線維束、腫瘍などが含まれます。そのなかには、頚椎横突起から第1肋骨の鎖骨下動脈と神経根の間に付着する最小斜角筋が含まれ、TOS患者の30~50%に見られます。13)
斜角筋破格の中でも重要なのが斜角筋停止部の付着形態です。Atasoy 14)は第1肋骨上に停止する前斜角筋と中斜角筋の形態を第1肋骨付着部において間隙がないV formation,第1肋骨付着部と近位でも間隙がないU formation,第1肋骨付着部における間隙は存在するが近位部に間隙がなく斜角筋三角部が狭いsmall spaceに分類し、TOSの発症に関与していることを報告しています。
小胸筋では筋肥大などの要因があり、隣接する神経血管束の圧迫を誘発されると言われています。これはTOS手術中に筋肥大が頻繁に観察されています15)16)17)18)19)20)21)22)23)24)25)。
最小斜角筋はC7横突起から鎖骨下動脈とT1神経の間を通って、第1肋骨に停止する異常筋です。またC7横突起がTh1横突起より大きい巨大横突起の際に存在することが多いです。26)
神経血管束を強く圧迫していることがあります。術前の超音波画像ではわかりにくく、TOSの症状があるにもかかわらずISD が広い場合は最小斜角筋が存在している可能性も考える必要があります。27)
骨性要因(30%)
骨性要因には、頚肋、大きなC7横突起、第1肋骨骨折、鎖骨の癒合不全、胸鎖・肩鎖関節脱臼、骨腫瘍などが含まれます。14)28)
またDahistrom ら29)は、屍体を用いた研究において、肋鎖間隙の幅が13.5mmと報告し、Kaplan ら30)は肋鎖間隙の幅が12.4mmであったとし、ISDよりも低値であったことから、神経血管束の圧迫に肋鎖間隙が強く関係すると述べています。その為、上記のような骨性要因が存在しない症例でも、肋鎖間隙の狭小化が要因になる可能性があります。
運動学的要因
上記の要因と合わせて運動学的要因を考える必要があると思います。その代表例として投球動作のような肩外転外旋位(以下、ABER 位)での動作があげられます。
Matsumura ら32)は、健常者におけるABER 位では、下垂位に比べて肋鎖間隙の距離が50%減少することを報告しています。また、Park ら33)は、アーチェリー選手の3D-CTにおいて、肩外転水平伸展位では、鎖骨の後退が強調され肋鎖間隙の狭小化が生じることを報告しています。また、挙上位での動作を繰り返す野球選手で罹患率が高いことが報告されています。34)35)Cadaverにおいてはワインドアップ、コックアップ、アクセレレーションにおいて、肘関節屈曲を強めると尺骨神経は10mm以上伸長し、遠位の肘部皆で伸長強いといことは、肋鎖間隙でもC8/Th1神経に伸長ストレスがかかると報告されている。36)
よって、ABER 位や肩関節水平伸展を伴うことで肋鎖間隙の狭小化による神経への圧迫ストレスや牽引ストレスが加わり、さらに解剖学的な要因も加わると症状が誘発される可能性があると考えられます。
TOSになりやすいスポーツと職業
慶友整形外科病院ではTOSと診断された合計400例(各症例100例ずつ)の調査がされています。スポーツでは保存、手術ともに野球が高い割合を占めています。また、オーバーヘッドスポーツでまとめると、保存では92%で手術では86%を占めています。
職業では重いものを持つ仕事、デスクワークのような同じ姿勢を維持し続ける仕事、教員などの上肢を挙上し続ける仕事が手術に至るケースが多いと述べられています。私たち理学療法士(リハビリ職)もこの調査の職業の中に入っていました。この記事を読んでいる方の中にもいらっしゃるのではないでしょうか。
Garraudら37)のRCT(randomized controlled trial:ランダム化比較試験)では、TOS はソフトボール、ウェイトリフティング、⽔球、フットボール (⽶国)、ラクロス、アーチェリー、陸上競技など、他のいくつかのスポーツでも報告されていますが、症例報告のほとんどは野球のピッチャーと⽔泳選⼿に関するものでした。
多くのスポーツの準備に必要な筋力トレーニングは、それ自体がTOSのリスク要因であるようです38)39)40)41)42)43)。
まとめ
- 神経性なのか、血管性なのか
- 神経性のdisputed TOSの場合は圧迫型・牽引型・混合型か区別
- 狭窄・圧迫部位の確認(斜角筋部・肋鎖間隙・小胸筋間隙)
- どの組織が原因なのか(軟部組織性:骨性=7:3、運動学的要因)
- 職業(重労働、デスクワーク、教師)とスポーツ(野球、水泳、オーバーヘッドスポーツ)
今回はTOSの病態について整理してみました。上記のことに頭に置きながら評価を行うことで円滑に治療を進めることができると思います。
そして次回は、今回の内容をもとにTOSの評価法をお伝えできればと思います。
参考文献・引用文献
参考文献
- 胸郭出口症候群のすべて
- 適切な判断を導くための整形外科徒手検査法エビデンスに基づく評価精度と検査のポイント
引用文献
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